社会性昆虫のいなかった島:外来スズメバチの脅威

 ハワイ諸島は、太平洋の真ん中から出現した海洋島で、しかも他の陸地から数千kmも離れているため、そこにたどりつく生物はごく限られていました。例えば、ハワイくらい温暖な地域ではどこでもいるアリ類が分布しなかったと言われているのはその一例でしょう。また、ミツバチやマルハナバチ、ハリナシバチといった温帯・熱帯を代表する社会性のハナバチも分布していませんでした。社会性昆虫には他に、スズメバチなどの狩り蜂がいますが、これもハワイには元々分布していません。


つまり、ハワイには社会性の昆虫が全く分布していなかったことになります。


 しかし、近年、外来のアリ、ハナバチ、スズメバチなどがハワイに侵入し、在来生態系にも生息するようになってきました。


 北米原産のクロスズメバチの一種(Vespula pensylvanica)がハワイで外来種として在来生物相に大きな影響を与えていることがわかってきました。


ナショナルジオグラフィックニュース
鳥をエサにするスズメバチ、ハワイで発見


 ハワイ島およびマウイ島において、クロスズメバチの一種(Vespula pensylvanica)が在来生物相に与える影響を調査した。


 ワーカーが巣に持ち帰る肉団子などのDNAを分析した結果、節足動物から軟体動物、鳥類、哺乳類まで多様な動物が含まれていた。その内訳は、クモ類(17.7%)、甲虫類(7.5%)、ゴキブリ類(2.4%)、ハエ類(5.8%)、カメムシ類(26.0%)、ハチ類(15.5%)、チョウ・ガ類(8.3%)、バッタ類(9.7%)、チャタテムシ類(5.6%)、カタツムリ類(0.2%)、鳥類(0.5%)、ネズミ類(0.2%)。ただし、本種は節足動物では生きた個体を捕まえているのに対し、脊椎動物などはおそらく死体などから肉を集めていると考えられた。


 エサメニューの大半を占めていた節足動物のうち、ガ類やハチ類では、多くの外来種が、クモ類、カメムシ類では多くの固有種がエサとなっていた。


 さらに原産地の本種のコロニーは、一年生(コロニーは1年以内に閉鎖)のものが多いが、ハワイでは、多年生コロニー(コロニーが1年以上継続)の割合が増え、これによってコロニーあたりの個体数が増加し、時間あたりのエサ捕獲量、蜜採集量も増加していた。また、一年生コロニーより多年生コロニーがある地域の方が、クモの密度が低下していた。


 ハワイ島マウイ島において、本種のコロニーを除去した結果、除去しない地域と比べて、4週間語、8週間語には明らかに節足動物(クモ類とガの幼虫)の密度が増加していた。つまり、本種の侵入は節足動物の密度を減らしているが、除去によって早急に回復することを示された。


文献
Wilson EE, Mullen LM, Holway DA (2009) Life history plasticity magnifies the ecological effects of a social wasp invasion. PNAS (doi:10.1073/pnas.0902979106)


 生態学的に興味深い点は、侵入地ではコロニーサイズが大きくなって密度が増加し、そのエサとなる節足動物が減らされること。また同時に、外来種対策として、効果的に除去を行えば生物相の回復も可能であること。


 ハワイには一般に危険な陸上動物はほとんどいません。Vespula pensylvanica は日本のいわゆるスズメバチと比べてずっと小型種ですが、ミツバチよりも攻撃性が強いので、蜂アレルギーの人にとっては危険な存在かもしれません。