「種の起源」を読んで

 ダーウィン(Charles Darwin)による「種の起源」の出版から150年を記念して新訳が出版されました。改めて通読し、さらに「読み方ガイド」で当時の背景をふまえながらダーウィンの考えたことをたどってみました*。



種の起源(上)
種の起源(下)
ダーウィン『種の起源』を読む


目次(上:1-7章、下:8-14章)


第1章 飼育栽培下における変異

第2章 自然条件下での変異

第3章 生存闘争

第4章 自然淘汰

第5章 変異の法則

第6章 学説の難題

第7章 本能

第8章 雑種形成

第9章 地質学的証拠の不完全さについて

第10章 生物の地質学的変遷について

第11章 地理的分布

第12章 地理的分布承前

第13章 生物相互の類縁性、形態学、発生学、痕跡器官

第14章 要約と結論


英語の原文
http://darwin-online.org.uk/content/frameset?itemID=F373&viewtype=text&pageseq=1


 感想としては、初学者がいきなり読む本としては薦められないでしょう。というのも、用いられる具体例やその説明は、現在では間違いであると解釈されるものも多いからです。また、当時一般的だと考えられていた背景も現在とは大きく異なります。そういう意味で、ある程度、現代の教科書的な内容を学んだ人が、趣味的に読む本といえるかもしれません。特に、ある程度の専門分野を研究している人が読めば、少なくともその分野におけるダーウィンの先見性に驚きを感じることでしょう。なにせ150年前の本ですから。


 個人的には、1章「飼育栽培下における変異」、2章「自然条件下での変異」、3章「生存闘争」、4章「自然淘汰」、5章「変異の法則」、7章「本能の法則」、11章「地理的分布」、12章「地理的分布承前」、13章「生物相互の類縁性、形態学、発生学、痕跡器官」が非常に興味をもって読めました。これは、生物の分類、種間相互作用、動物の性差、地理的分布などにもともと興味があるからです。


生物地理の章では、海洋島に、どのように陸上植物、水草、淡水貝、陸貝などが移住したかの実験結果やその考察が述べられており、これは現在でもそのまま通用するものです(むしろ、ダーウィン以来ほとんど進展がない)。


本来分布しないはずの外来種が繁栄している状況をさまざまな仮説の例としてあげているのも興味深いところです


逆に、8章「雑種形成」、9章「地質学的証拠の不完全さについて」、10章「生物の地質学的変遷について」は、私自身、現在の解釈だけでなく、当時の主流な解釈や時代区分についての知識もなかったので、「ダーウィン『種の起源』を読む」による解説は参考になりました。


 「種の起源」は、かなりまわりくどい文章や、同じ内容の繰り返しがあって、一読しただけでは理解しがたい印象です。一言でいえば「歯切れが悪い」のです。これは、ダーウィンが社会に与えるさまざまな影響を考慮して、じつに慎重に言葉を選びながら「神の存在」を否定し、進化の事実とそのメカニズムとして「自然選択(自然淘汰)」という仮説を提示しているからです。また、当時の証拠から最低限言えること、そして論理的に類推してさらなる革新的な仮説を提示しているのが印象的です。たとえば、14章「要約と結論」での「生命の単一起源」の可能性について以下のように述べています。これが「種の起源」で一貫して用いられている「慎重な」言い回しです。


I believe that animals have descended from at most only four or five progenitors, and plants from an equal or lesser number.


Analogy would lead me one step further, namely, to the belief that all animals and plants have descended from some one prototype. But analogy may be a deceitful guide. Nevertheless all living things have much in common, in their chemical composition, their germinal vesicles, their cellular structure, and their laws of growth and reproduction. We see this even in so trifling a circumstance as that the same poison often similarly affects plants and animals; or that the poison secreted by the gall-fly produces monstrous growths on the wild rose or oak-tree. Therefore I should infer from analogy that probably all the organic beings which have ever lived on this earth have descended from some one primordial form, into which life was first breathed.


動物はせいぜい4種類か5種類の祖先に由来しており、植物はそれと同じかそれよりも少ない数の祖先に由来していると、私は信じている。


類推をさらに働かせるならば、すべての動物と植物は、ある一種類の原型に由来していると信じるところまで踏み込める。しかし類推は偽りへと導くこともある。それでもすべての生物には、化学組成、胚胞、細胞の構造、成長と生殖の法則などで多くの共通性がある。そのことは、同一の毒素が植物と動物で同じように効くとか、タマバエの分泌する毒素によってノバラでもオークの木でも奇怪な虫こぶができるといった些細なことにおいてすら確認できる。したがって私は類推から出発して、地球上にかつて生息していたすべての生物はおそらく、最初に生命が吹き込まれたある一種類の原始的な生物から由来していると判断するほかない。


原文および
新訳「種の起源(下)」394-395ページから引用


*「種の起源(下)」の巻末におさめられている(訳者による)解説は、ダーウィン以後の150年の進化学の進展をうまく要約されていて勉強になりました。この新訳は、「種の起」が「種の起」に変わっただけではありません。


種の起源(上)」の感想は以下のページ

  博覧強記