島が大きくなるほど種分化がおこりやすい

 島の面積ー種数関係(島が大きくなると種数が増える関係)は、島における種の移入と絶滅によって生じます(参考)。つまり、島における移入率は島の面積とともに増加し、絶滅率は島の面積の増加に対し減少し、その動的平衡点がその島の種数となるというわけです。これはいずれの生態学の教科書にも記されていることです(移入ー絶滅の平衡理論)。


 島の面積ー種数関係は、大きな大陸や島でも同様に見られるものですが、移入ー絶滅の平衡メカニズムをそのまま適用できません。というのも、大陸では種の移入というよりも大陸内での種分化を通じて種数が増加するからです。つまり、移入ー絶滅というよりは、種分化ー絶滅の動的平衡点がすなわちその種数ということです。では、種分化率も島の面積に対しても増加するのでしょうか。島が大きければ地形も複雑になったり生息地の多様性も増加するので島内でも異所的な種分化は起こりやすそうです。この予測をカリブ(西インド)諸島のアノール属(Anolis)*を使って検証した研究があります。


 カリブ諸島には143種のアノール属が分布している。これらの種のミトコンドリアDNAを使って系統関係を明らかにし、各島の分布が他の島からの移入(もちろん自然移入)か島で種分化したものであるかを調べた。


 調査した143島のうち、3000km2下の島では種分化は全く起こっていなかった。それに対し、8959km2プエルトリコには現在10種が分布しているが3種の祖先種をもとに7回の種分化が起こっていた。また、最も島面積の大きいキューバ(114524km2)では、57種のうち42種がキューバで放散した種群で、他の15種のうち12種も島内で種分化していた。以上のように、3000km2以下の小さい島では種分化は全く起こっていないか、わずかに起こっても絶滅により相殺されているようだ。


 カリブ諸島における島面積とアノール属の種数の関係をみたところ、3000km2の面積から急速に種数が増加している傾向が見られ、これは上記の種分化による増加を意味している。


文献
Losos JB, Schluter D (2000) Analysis of an evolutionary species-area relationship. Nature 847-850.


 地球レベルでの種数は、新しい種の分化と種の絶滅の動的平衡点であらわされるはずです。また、その種数には異質性があります。つまり、ある場所では他の場所よりも相対的に多くの種数が分布する。このメカニズムに光をあてた研究として教科書にも紹介されています。




*アノール属といえば、グリーンアノール(Anolis carolinensis)。太平洋の島々で外来種となっていますが、もともとは中北米などで多様化したグループの一種だったのです。ハワイにはグリーンアノール、ブラウンアノール(Anolis sagrei)、ナイトアノール(Anolis equestris)の3種が、小笠原にはグリーンアノールが外来種として分布しています。