なぜ熱帯に植食性昆虫が多いのか?(まとめ)

 熱帯林ではなぜ植食性昆虫の種が豊富なのか?


 熱帯林での植食性昆虫の多様性に関する論文を何編か読んできました。これまでの研究をまとめた総説が出ていますので、これに沿って整理しておきます。


 主に四つの要因によって、熱帯林では温帯林よりも植食性昆虫の種多様性が高いことが考えられる。


(1)寄主植物の多様性は熱帯の方が高い
(2)植物あたりの植食性昆虫の種数は熱帯でより多い
(3)植食性昆虫の寄主特異性は熱帯でより高い
(4)植食性昆虫のβ多様性は熱帯でより高い


(1)単位面積あたりの植物の種数が、温帯林より熱帯林の方が多いことはさまざまな研究により明らか。また、植食性昆虫としての寄主植物の多様性も熱帯の方が温帯より高い。


(2)〜(4)については、熱帯と温帯を直接比較した研究は少なく、あったとしてもその結果が手法や地域によって異なるため、一般的な結論を下すには時期尚早。


文献
Lewinsohn & Roslin 2008. Four ways towards tropical herbivore megadiversity. Ecology Letters 11: 398-416.


 (4)について、熱帯では多くの植食性昆虫が特定地域のみに生息するため、地域間での種構成が異なる(β多様性が高い)のが一般的と考えられてきましたが、ニューギニア島内における研究では、地域間での差は小さく、β多様性は低いという報告もあります(多くの植食性昆虫の分布域が広い)。


 昆虫の多様性は予想よりも小さい?


文献
Novotny V et al. (2007) Low beta diversity of herbivorous insects in tropical forests. Nature 448: 692-695.


 結局まだまだわかっていないことが多いということのようです。考えてみれば、典型的な熱帯雨林に行ったことがないので、どれだけ多様性が高いのか、感覚としてもっておきたいなあとは思う今日この頃です。


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