そろそろこの「ハワイの珍奇なる虫たち」シリーズもネタ切れになりつつありますが、今回はお気に入りの内容です。
ガガンボ(双翅目ガガンボ科)といえば、一般の人には「大きな蚊」程度にしか認識されていないかと思います(ハエの仲間です)。通常、ガガンボの幼虫は林床で植物の根や遺体、キノコなどを食べており、腐植性の土壌動物のイメージがあります。ところがハワイのガガンボの中には、幼虫が生きた植物の葉に潜る生態をもつものがいるそうです。そんな生態をもつガガンボがいるとはほとんど聞いたことがありません。
幼虫が葉にもぐりこんで、中の表皮組織や葉肉組織の中を食べる植食性昆虫を潜葉虫(せんようちゅう:leaf miner リーフマイナー)と読んでいますが、まさにガガンボのリーフマイナーがハワイで進化したということです。
発見はかなり古いですが、原著論文ではこのガガンボ Limonia kauaiensis Grimshaw(記載当時の学名はシノニムで消滅)*の生態について、幼虫や蛹、潜葉痕の絵とともに簡潔に記載されています。
左より幼虫、蛹、潜葉痕、上は成虫の前翅(Swezey 1915)
幼虫はイワタバコ科(Gesneriaceae)のハワイ固有種 Cyrtandra paludosa や Cyrtandra 属他種の葉に潜り、線状潜孔を残し、葉内で蛹になります。分布はハワイの主要島すべてに生息しているようで、他の同属の2種(L. jacobus, L. swezeyi)もリーフマイナーである可能性があるそうです。
文献
Swezey OH (1915) A leaf-mining cranefly in Hawaii. Proceedings of the Hawaiian Entomological Society 3(2): 87-89.
Hardy DE (1960) Insects of Hawaii vol. 10. University of Hawaii Press.
ガガンボのリーフマイナーと聞いて「おもしろい」と感じる人はかなりの少数派でしょう。しかし私は、こういう博物学の匂いただよう研究に触れるだけで元気がでてくるのです。
*Limonia kauaiensis Grimshawは、Limonia foliocuniculator (Swezey)としている文献もあります。