日本列島の生物多様性とは

 帰国して最初に読む本は決まっていました。*1


生命は細部に宿りたまう ミクロハビタットの小宇宙


 日本列島の生物とは、生物多様性保全とは、いろいろと考えるのに良い本です。日本列島に固有の生物とその種間相互作用について、さまざまな事例を紹介しています。小型の薄い本で、カラー写真も多いので、1,2時間で簡単に読むことができますが、とても奥の深い内容です。


6年ほど前に、著者の研究室にポスドクとして席をおかせてもらったことがあるので、客観的な感想は述べられる立場にはないかもしれません。ただしそれゆえに、一つ一つの生物を紹介する度に、その背景にある著者の考え方、またはその研究にかける情熱など知ることができたのかもしれません。


 海岸から森林までさまざまな環境に棲む日本固有の生物たちとその特異な生態を次々に紹介しています。例えば・・・


 普通の本ではほとんど紹介されたことのない生物やそれらの間の特異な関係が頻出します。しかも、多くは派手な色彩はなく地味で、しかも小型のものばかり。また、元来珍しいものであったり、かつては普通でも現在では少なくなったものがほとんどです。つまり、これらの生物に憧れて、実際に見ようとしても簡単ではありません。何よりその手段がこの本ではほとんどふれられていません。


案内のままにその場所に行って、そこで言われた通りの方法で観察できてしまうよりも、自らが見たいという思いで調べ、これらの生物に巡り会う過程を通して、日本固有の生物とその多様性を実感できるのかもしれません。


 私自身ハワイで過ごした2年間で感じたこととして、ハワイ諸島固有の生物たちは間違いなく地球の生物多様性の重要なパーツであり、日本列島の固有種たちもまた同様であるということです。つまり、生物多様性の研究や保全というのは、その地域を通して地球規模の生物多様性の研究であり保全であるということです。


個人的には、これからは日本の生物やその多様性を研究していくことで、日本列島固有の特徴を捉えつつも、他の地域と共通のパターンやメカニズムを明らかにできたら良いなあと漠然と考えています。

*1:とある書店では、滝クリの「生き物たちへのラブレター 生物多様性の星に生まれて」と並んでありましたが、COP10に関連の多様性出版ブームとはいえ、あまりの内容の差にちょっとショックを受けました。