島から外来種を除去する順番

 外来種が生態系に与える問題点を考えるとき、その外来種は他の外来種や在来種とも深く結びついていることを念頭におく必要があります。個体数が増加した外来種の場合はなおさらでしょう。


以前に、外来種のネコとネズミ、そして保全対象となる海鳥を考えたとき、上位捕食者であるネコを先に駆除すると中位捕食者であるネズミが増えてしまい、かえって海鳥への捕食が高まる場合を紹介しました(島で外来捕食者を駆除する時の注意点:‘mesopredator release’に関連して)。


可能ならば外来種をすべて同時に駆除するのが理想ですが、予算的にも技術的にも一種ずつ駆除するのが現実的でしょう。その場合でも、どの順番で駆除していくかは極めて重要になります。


 カリフォルニア沖のチャンネル諸島には、固有(亜種)の小型のハイイロギツネ(Urocyon littoralis)が分布しているが(島の法則)、1990年代にはイヌワシAquila chrysaetos)による捕食によって絶滅の危機におちいった。イヌワシは、島に野生化して殖えたノブタを目当てに島を訪れ定着したが、同様に固有キツネも襲った(いわゆる捕食者を介した餌種同士の“みかけの競争 Apparent Competition”)。




チャンネル諸島に固有の小型ハイイロギツネ(Wikiepdiaより



固有ハイイロギツネを保全するためには、イヌワシとノブタの両方の除去が重要である。ノブタを先に完全に駆除すると餌が減ることでイヌワシによるキツネへの影響が強くなるかもしれない。イヌワシを先に駆除するのが最も有効だが、倫理的に殺傷による駆除は難しく、完全に除去するのは困難である。




イヌワシWikipediaより:photo by J. Glover - Atlanta, Georgia



そこで、サンタ・クルツ島(Santa Cruz Island)において、1999年から2006年にかけて44羽のイヌワシを除去しつつ、2005年から2006年にかけてノブタの一斉駆除が行われた。しかし、少なくともイヌワシ1ペアが捕獲を逃れノブタ駆除後にも営巣を行った。


 イヌワシによるキツネとノブタにかかる捕食圧を調べるために、2002年から2006年にかけて断崖に営巣した合計7ペアの巣から餌動物(食べ残し)の調査を行った。結果、ノブタ駆除前では、同定できた餌動物のうち41.1%、バイオマスの53.2%がノブタで、固有ハイイロギツネはそれぞれ5.1%と5.3%、他は鳥類が51.3%と35.8%を占めていた。ただし、ペアによって餌動物の割合は異なっており、ノブタを主に狩るペア、鳥類を主に狩るペア、キツネを全く狩らないペアまでばらついていた。


捕獲を逃れ営巣した1ペアについては、駆除前には餌としてキツネが17.5%だったが、駆除後には51.5%にまで増加した(鳥類は3.4%から48.5%にまで増加)。


 このようにノブタ駆除に先立ってイヌワシを除去しなければ、固有ハイイロギツネに与える影響はより大きいものになっていたかもしれない。


文献
Collins PW et al. (2009) Does the order of invasive species removal matter? The case of the eagle and the pig. PLoS ONE 4(9): e7005.


 ここでのイヌワシは厳密には外来種ではないようです(過去に営巣はしておらず稀な訪問者にすぎなかった)。しかしノブタによって定着し増えてしまったという意味では外来種問題の一つです。しかも、外来種でないのに加えて大型鳥類であるため、(倫理的、愛護的にも)その除去には殺傷を伴わないよう配慮が必要だったといえるでしょう。


 外来種を駆除する時には、それにかかわる生物間の相互作用をしっかり調べておく必要があるということです。捕食ー被食関係だけでなく、資源競争、寄主ー寄生関係、共生関係など多様な視点が重要であることは言うまでもありません。


外来種が生態系の中でどのような位置にあるかを考慮した上で除去を行うべきであるという話は、ちょっと前に総説としてまとめられていますが、さらに事例研究が増えてきたように感じます。


総説
Zavaleta E et al. (2001) Viewing invasive species removal in a whole-ecosystem context. Trends in Ecology and Evolution 16: 454-459