「世間って狭いなぁ」というほどに、人と人との関係は近い。英語では、「It's a small world」と言われます。例えば、知り合いの知り合いの知り合いをたどっていけば、多くの人はだいたい5人ほどで日本の総理大臣までたどりつけるでしょう。人によってはもっと少ない人数でたどりつけるかもしれません。
実際、1967年の米国で行われた実験では、任意に抽出された二人同士は(平均)おおよそ6人の知り合いを介してつながっているということがわかりました(六次の隔たり:Six degree of separation)。
各人を点として、そのつながり(リンク)を網の目のようなネットワークとしてとらえ、その構造を調べることで、Small worldの仕組みを明らかにしようという試みがこの10年なされてきました。
その中でも先駆的な業績として、Watts & Strogatz (1998)による「スモールワールドネットワーク(Small world network)」のモデルがあります。彼らは、単純な格子からなる(クラスターのある)構造に、ランダムなリンクを少数導入することで任意の2点を結ぶ最短経路の平均値が小さくなることを発見しました。
また、Barabási & Albert (1999)は、ある種のネットワークには、多くの点と結びついている少数の点(ハブと呼ばれる)と、ごくわずかの点としかつながらない大多数の点からなることを発見し、「スケールフリーネットワーク(Scale-free network)」モデルを提唱しました。つまり、多くの人とつながりのある「ハブ」の存在がネットワーク内の隔たりを少なくしている原因の一つだろうというわけです。
さて、前置きが長くなりましたが、生物群集でも類似したネットワークを見いだすことができます。最近発表された総説を参考にすれば、ここ20年は主に三つの生態的ネットワーク(Ecological network)が研究されてきています。
- 捕食・被食関係からなる食物網ネットワーク(Food web network)
- 寄主・捕食寄生者ネットワーク(Host-parasitoid network)
- 共生系ネットワーク(Mutualistic network)
生物種間で、食う食われる関係をつなげたものを食物網(Food web)と呼んでいますが、任意に選ばれた2種同士はけっこう近いということが知られています。各種を点として食う食われる関係をリンクとすると、いくつかの食物網(海岸、陸域、湖)でネットワーク構造を調べられた結果、任意の2点(種)間の距離はおおよそ2種を介して(二次の隔たり:Two degree of separation)つながっているようです。
花を訪れる昆虫や動物は、相互に利益があるものとして相利共生系であるとされています。他にも、植物の果実や種子を食べて散布する種子散布、植物の花外蜜腺を訪れるアリなど、いくつかの植物と動物の共生系ネットワークが研究対象とされてきました。中でも、植物と訪花性昆虫との関係では、食物網と違い、1段階の栄養段階(花蜜または花粉とそれを食べる動物)からなり、かつ同じ植物を共有する動物種同士が多く(またその逆も多い)ため、共生系ネットワークは食物網ネットワークに比べてより近い隔たりによって構築されているようです。つまり、最もスモールワールドなネットワークというわけです。
文献
Watts DJ, Strogatz SH (1998) Collective dynamics of 'small-world' network. Nature 393: 440-442.
Barabási AL, Albert R (1999) Emergence of scaling in random networks. Science 286: 509-512.
Williams RJ et al. (2002) Two degree of separation in complex food webs. PNAS 20: 12913-12916.
Ings TC et al. (2009) Ecological networks - beyond food webs. Journal of Animal Ecology 78: 253-269.
さまざまなネットワーク構造を理解しておけば、その安定性を保護する上で有効だろうという考え方です。空港ネットワークでみれば、たくさんの行き先をかかえる大型空港(ハブ)がテロなどでダメージを受ければ、ネットワーク全体に影響が及び大混乱が起こるでしょう。同様に、生態的ネットワークにおいても、さまざまな種と多数結びついている種(ハブ)が絶滅すると、ネットワーク全体への影響が大きくなるという具合です。
参考図書
1はスモールネットワークのワッツによる著書、2はスケールフリーネットワークのバラバシによる著書です。1と2には生態系の話は出てきませんが、3には出てきます。個人的には2が読みやすく、バラバシがスケールフリーネットワークを発見した時の興奮がうまく伝わっていておもしろかった(Scienceに一度editorial rejectされたのに電話で復活させたり)。