ダーウィンが投稿していた雑誌

 自然選択説を提唱したダーウィン(Charles Darwin)は、職業的な研究者(大学教授など)というわけではなく、いわゆる資産家で自宅で研究を行ってきた19世紀の博物学者です。彼の著名な業績の多くは、本という著作物として出版されているわけですが、彼自身、学術雑誌にもたびたび論文を発表しています。


研究者としては、彼が実際にどういう雑誌に論文を寄せていたかは非常に興味があります。ダーウィンの著作物はすべてウェブ上のデータベースで読むことができますので(Darwin's Publications)、ざっと発表雑誌をカウントして上位5位までをリストアップしてみました(他人の論文中で触れられている記述は除く)。


1位:ガーデナーズ・クロニクル(Gardeners' Chronicle)
2位:ネイチャー(Nature)
3位:ロンドン地質学会誌(Geological Society of London)
4位:ロンドン・リンネ学会誌(Linnean Society of London)
5位:アナルズ・アンド・マガジン・オブ・ナチュラルヒストリー(Annals and Magazine of Natural History


1位のガーデナーズ・クロニクルは、園芸関係専門誌で、今でも Horticulture Week の一部として存続しているそうです。当時のダーウィンはかなり精力的にこの雑誌に短い報告を寄せていてその数は50弱もあります。植物の育種や受粉に関する仕事と関連すると思われます。同時代の植物学者フッカー(Joseph D. Hooker)も発表していたそうです。


2位は今では研究者の憧れの雑誌、ネイチャーです。創刊年から発表しています。当時は、誰かの問題提起や観察結果に対して、反論を述べたり、証拠を提供したりするといったお便り形式での短い報告がメインでした。ダーウィンは30数編を発表しています。かの南方熊楠もその形式時代にはおよそ50編も発表しており、日本人では最多となっているそうです(南方熊楠英文論考「ネイチャー」誌篇)。ちなみにダーウィンの最初に発表したNature論文は「冬に花をつける植物の受精」について。


3位は、ロンドン地質学会発行の5誌(Proceedings of the Geological Society、Proceedings of the Geological Society of London、Quarterly Journal of the Geological Society of London、Transactions of the Geological Society 、Transactions of the Geological Society of London)に発表した合計です。現在では、 Journal of the Geological SocietyQuarterly Journal of Engineering Geology and Hydrogeology が後継誌になるようです。同時代の地質学者ライエル(Charles Lyell)に影響を受けただけあって、地質学に関する関心は極めて高かったようです。


4位は、ロンドン・リンネ学会発行の6誌 [Journal of the Linnean Society of London (Botany) 、Journal of the Proceedings of the Linnean Society (Botany), Journal of the Proceedings of the Linnean Society of London (Botany)、Proceedings of the Linnean Society of London (Botany)、Journal of the Proceedings of the Linnean Society (Zoology) 、Journal of the Proceedings of the Linnean Society of London (Zoology)など ] に発表した合計です。特に、ウォレス(Alfred R. Wallace)とともに1858年に同学会で発表し、Journal of the Proceedings of the Linnean Society of London (Zoology) にて出版された論文こそが「自然選択説」のオリジナル論文となっています。ちなみに動物シリーズの3編に対し植物シリーズは12編発表しています。上記の雑誌は現在では、後継誌として植物が Botanical Journal of the Linnean Society、動物が Zoological Journal of the Linnean Society総合誌Biological Journal of the Linnean Society として発行されています。



ダーウィンの書いた論文の1ページ(Proceedings of the Linnean Society of London, Botany 6: 151-157


5位のアナルズ・アンド・マガジン・オブ・ナチュラルヒストリー(Annals and Magazine of Natural History)は、現在では Journal of Natural History として発行が続けられています。さまざまな動植物の自然史に関する記事が多く、ダーウィンが愛読していた雑誌の一つで、ウォーレスはこの雑誌に数多く投稿しています。博物学の伝統を受け継いでいる雑誌といえるでしょう。


 全体を概観すると、動物学の雑誌よりも、地質学、植物学の雑誌により多く発表していた印象があります。