アマゾンの漁師とカワイルカ

 大河川など淡水域に分布するカワイルカは、その進化史からみても重要なのは言うまでもないでしょう。インドカワイルカ(ガンジスカワイルカ、インダスカワイルカ)、アマゾンカワイルカ、ヨウスコカワイルカ、ラプラタカワイルカなどが知られており、それぞれ独自に淡水域に進出したと考えられています。しかし、多くの地域で絶滅の危機に瀕しています。例えば、中国のヨウスコカワイルカが絶滅してしまった可能性が高いことが以前話題になりました(参考:ヨウスコウカワイルカがほぼ絶滅―「種の存続」に必要な数以下に減少)。


 アマゾン川にはアマゾンカワイルカがいます。このカワイルカは古くからの言い伝えによって現地の人にとってはある意味神格化されてきたそうです。例えば、カワイルカを殺すことは一種のタブーであり、処罰をうけたりすることもあったようです。また、最も興味深い言い伝えとして、父親がわからない子供の多くは、アマゾンカワイルカによって妊娠させられたというものがあります。カワイルカは人へ化けて人家にもぐりこみ、人を眠らせ行為におよぶというのです。


そのような神話(?)によって保護されてきたためか、アマゾンカワイルカは他のカワイルカに比べて比較的個体数が多く絶滅の危機には瀕していないと思われてきました。しかし近年、コビトイルカ(川と海両方に分布)とともに、故意に殺されていることがわかってきました。



Wikipediaより:photo by rruiz3960)


 2005年に行われた調査では、コビトイルカ12個体、アマゾンカワイルカ6個体の死体のうち、3個体が人為的に殺された可能性が高かった。この死体を詳しく調べると、背面、側面、尾などに人為的につけられた傷が見つかった。おそらくこれらの傷は、地元の漁師がよく使っている銛(もり)やマチェーテ(なた)によるものだった。また、死体の状態から、これらのイルカが食用のために殺されたものではなかった。


殺される理由としては、(1)アマゾン川の魚介類資源をめぐるカワイルカと漁師と対立、(2)近年アマゾン川で盛んになりつつあるナマズ漁のエサにするため、(3)薬用に体の一部を使うため、などが考えられる。


文献
Loch C et al. (2009) Conflicts with fisheries and intentional killing of freshwater dolphins (Cetacea: Odontoceti) in the Western Brazilian Amazon. Biodiversity and Conservation 18:3979-3988.


アマゾンカワイルカの良い伝えなどの文献
Cravalho MA (1999) Shameless creatures: an ethnozoology of the Amazon River Dolphin. Ethnology 38: 47-58.


Alves RRN, Rosa IL (2008) Use of tucuxi dolphin Sotalia fluviatilis for medicinal and magic/religious purposes in North of Brazil. Human Ecology 36: 443-447.


ナショナルジオグラフィック:特集記事
アマゾンカワイルカ


 イルカやクジラは文化によって見方は異なるものの、どこでも人気のある動物で最も優先的な保全対象となりがちです。