ハワイの生物

ハワイ諸島におけるオカモノアラガイの進化

オカモノアラガイというのは陸生の巻き貝(つまりカタツムリ)の一種です。一般にモノアラガイと呼んでいるのは淡水生の巻き貝です。 オカモノアラガイ科(Succineidae)は世界中に広く分布しています。飛ぶことも海水にもほとんど耐えられないにもかかわら…

社会性昆虫のいなかった島:外来スズメバチの脅威

ハワイ諸島は、太平洋の真ん中から出現した海洋島で、しかも他の陸地から数千kmも離れているため、そこにたどりつく生物はごく限られていました。例えば、ハワイくらい温暖な地域ではどこでもいるアリ類が分布しなかったと言われているのはその一例でしょう…

外来種同士の新しい関係

虫好きの人にとってはツノゼミはとても気になる昆虫です。熱帯域ではツノゼミの多様性や個体数が多いことはよく知られていますが、その存在はアリとともに認識されると言ってよいでしょう。アブラムシとアリ、カイガラムシとアリの共生関係と同様、ツノゼミ…

美味しい外来植物

先日山に行ったら、フトモモ科のストロベリーグアバ(Psidium cattleianum)の果実が赤く熟していました。手に取って食べてみたら、甘酸っぱくて美味しい。果実を集めてジャムをつくっている人もいるとか。 ハワイでは、ブラジルから持ち込まれたものが帰化…

ハワイ固有ハナバチの起源と急速な種分化

ハワイ諸島にはもともとミツバチやマルハナバチ、ハリナシバチといった社会性のハナバチ類はもともと分布していませんでした(現在では人の手で持ち込まれ定着している)。 社会性ハナバチの女王は、海を渡って隔離された島に渡ることができないことと関係が…

ハワイ固有コオロギの急速な種分化

ハワイ諸島は、各島のおおよその形成年代がわかっているため、その値を使って、各島の島固有種の起源を推定することがしばしば行われています(参考)。例えば、現在ハワイ島にのみ分布する固有種は、ハワイ島の形成時期である43万年前より昔には分化してい…

ハワイから広がる多様性

大学はすっかり夏休みという感じで学生もまばらです。研究室のRさんも出張と帰省をかねて欧州に旅立ちました。二ヶ月ほど帰ってこないそうなので、研究室も少し気が抜けた感じです。ということで、夏休み中はセミナーがないかと思っていたのですが、今日は臨…

両生類のいなかった島:カエルに食べられた鳥

今日のセミナーは、ハワイ固有の水鳥であるハワイセイタカシギ*の研究についてでした。 Wikipediaより セイタカシギですから、もちろん湿地に生息し、繁殖もそこで行われます。ふ化率は比較的高いにも関わらず、ヒナの死亡率が極めて高いようで、マングース…

ハワイの珍奇なる虫たち(6)葉にもぐるガガンボ

そろそろこの「ハワイの珍奇なる虫たち」シリーズもネタ切れになりつつありますが、今回はお気に入りの内容です。 ガガンボ(双翅目ガガンボ科)といえば、一般の人には「大きな蚊」程度にしか認識されていないかと思います(ハエの仲間です)。通常、ガガン…

群集が収斂する:ハワイのアシナガグモ

ハワイの生物としてクモをとりあげることが多いような気がします(網を使わず爪で狩るクモ、クモの笑顔もいろいろ)。ハワイのクモを材料に勢力的におもしろい論文を書いている研究者がいるからでしょう。ちょうどニュージーランドでも話題にされています。 …

最近侵入した甲虫

先日大学内で拾った甲虫(3050 Maile Way, Honolulu, HI; 6 Apr. 2009) 。どうもオオナガシンクイ(Heterobostrychus hamatipennis)の♂のようです。昔、京都の伏見稲荷でよく拾ったやつです。懐かしい。 ハワイの節足動物チェックリスト(2002)に掲載され…

ハワイの珍奇なる虫たち(5)クモの笑顔もいろいろ

Happy face(ハッピーフェイス)を模したロゴマークというのがあります。日本でも、スマイルマークとして知られているかもしれません。 そのロゴマークそっくりの腹部をもつクモがハワイに生息しています。その名もハッピー・フェイス・スパイダー(Theridio…

ハワイの珍奇なる虫たち(4)羽を失ったハエ

ハワイやガラパゴスのような海洋島では、しばしば羽が退化して飛ばなくなった鳥が知られています。ハワイクイナ、ガラパゴスのコバネウ、モーリシャスのドードーなどなど。昆虫にも、本来は飛翔能力が高いグループなのに飛ばなくなった種が知られています。 …

生物的防除が落とした影(2)ハワイの導入寄生蜂

アフリカマイマイ防除のために放ったヤマヒタチオビが、固有カタツムリたちを滅ぼす結果になったことは一つの悲劇でした(生物的防除が落とした影 1)。 ハワイは、害虫にとって天敵がいない天国のようなところですから(天敵解放仮説)、その農作物への被害…

ハワイモンクアザラシの遺伝的多様性

今日(金曜日)はセミナーの日。 午前と午後は同じスピーカー(大学院生)によるものでした。前半は、主にレモンザメ類の系統地理、後半は Ph.D.Defense で、ハワイモンクアザラシの遺伝的多様性についてでした。いずれも分子データをもちいた研究で、成果は…

ハワイの珍奇なる虫たち(3)カザリバガの驚くべき生態と多様性

ハワイの珍奇なる虫として、(1)肉食しゃくとりむし、(2)爪で獲物を狩るクモについて紹介しました。 今回もまたガの幼虫の話です。 ハワイには、一種の祖先から驚くべき種数へと放散した生物が知られています。これまでに紹介したロベリアやハワイマイ…

‘Apapane’ に出会えた日

先月に引き続き、昨日はオアフ島の最高峰Kaala山に連れていってもらいました。平地は絶好の天気でしたが、やはり山頂部付近は曇り時々雨という感じでした。雨は雨で、カタツムリたちが動き出すので観察するには良い機会です。それでも、ごくたまに雲の隙間か…

カメレオン・ハンティング

ややかた苦しい話題が続いたので、フィールドの話でも。 今日はBさんらと一緒にカメレオン採集に行きました。 ハワイには、ジャクソンカメレオン(Jackson's Chameleon; Chamaeleo jacksonii)というアフリカ(タンザニア)原産の大型カメレオンが帰化してい…

生物的防除が落とした影(1)肉食のカタツムリ

動物学や植物学、菌学、昆虫学などの研究者は、生物の生活史や生態を明らかにして、その結果を専門誌に発表します。その過程で、その成果が何か人の役に立ったら良いなあと望むことは一般的でしょう(私もたまに思います)。しかし、その成果が一人歩きして…

最大最悪の外来種

ハワイでも雨上がりにはしばしばアフリカマイマイ(英語でGiant African Snail)に出会います。日本でも沖縄や小笠原では嫌と言うほど見る機会があるのですが、その他の地域の人には見慣れないカタツムリでしょう。 本種は、名前からもわかるようにアフリカ…

‘Hawaiian Blue’ に出会えた日

憧れていた生物にフィールドで出会うことはとても嬉しいことです。ということで、たまにはフィールドに出かけたお話でも。 Bさんらが高校生二人を連れてハワイマイマイの調査に行くというので(参考)、同行させてもらうことにしました。 道中、学部生と高校…

ハワイマイマイの進化

ハワイの陸貝類の固有性の高さ(在来種のうち99%以上の固有率)は以前に紹介しました。その中でも、ハワイマイマイ類(写真)は、その殻が大型で美しい色彩をもつため、特筆すべきハワイの重要な生物といえます。一般にハワイマイマイ類とは、Tree snailと呼…

ハワイの珍奇なる虫たち(2)網を使わず爪で狩るクモ

ハワイ諸島で独自に進化した興味深い生態の第二弾として、網を使って獲物を捕るのをやめてしまったクモの生態をとりあげてみました。 ハワイ諸島、カウアイ島にのみ生息するアシナガグモ科の一種、Doryonychus raptorは、前脚の先端にある爪が、他の種に比べ…

ハワイ諸島での種分化:‘Progression Rule’

ハワイ諸島が、北西方向に連なる歴史性を持っていることは紹介しました(ハワイ諸島形成史)。これを考慮することによって、ハワイで現在見られる多くの固有種がいかに進化してきたかを説明しようという仮説があります。 ハワイやガラパゴスのような海洋島で…

ハワイ諸島の形成史

ハワイ旅行に行ったら、まず聞かれるのがどこの島を訪れたか、でしょう。生物の話をするときも、島の名前とその位置は重要ですが、それには、それぞれの島の歴史が異なっていることが関連しています。ここで、ハワイ諸島の島の名前と歴史をまとめておきます。…

ハワイの珍奇なる虫たち(1)肉食しゃくとりむし

外来種や保全に関しては、基本的には暗い話題が多いものです。しかし、仕事として誰かが取り組むべき問題であるとも思うのは昨日述べたとおりです。とはえ、ここではもっと自然の魅力を感じてもらえるような話題も加えていけたら良いかなとは思います。魅力…

オアフ島最高峰へ:雨中の調査行

たまには小難しくない話題も。 昨日は、BさんとPさんらに、オアフ島の最高峰、カアアラ山(Mt. Ka'ala:4003ft = 1220m)に連れていってもらいました。US Armyの管理する道路を通って山頂部近くまで車で行くことができました。もちろん、US Armyの無脊椎動物…

アリのいなかった島(1)ハワイのアリ相

アパートの台所と風呂場に発生していたアワテコヌカアリ(2mmに満たない小型の種)を駆除するために、市販されているベイトステーションタイプ(毒餌を巣までお持ち帰りしてもらうタイプ)の薬剤を設置したところ、たった2,3日で姿を見ることがなくなりま…

ゴキブリのいない島:ハワイの節足動物目録

クリスマスをハワイで過ごすとは、去年までは全く考えてもみませんでした。この季節になっても、相変わらず温かいままです。夜間、気温を測ったら、部屋の中で25℃ありました。いわゆる熱帯夜です。しかし、気温から感じるほどの暑さは全くなく、夜風は涼しい…

島で木になる植物:海洋島でのロベリアの進化

「この木、なんの木、気になる木〜♪」の歌で有名な日立のCMの木は、実は、ハワイで撮影されているとか(現在5代目で、1、2、5代がハワイで撮影された木)。しかし、この木、もともとハワイに生えていないアメリカネムノキです。もっと、ハワイらしい木を使っ…