最大最悪の外来種

 ハワイでも雨上がりにはしばしばアフリカマイマイ(英語でGiant African Snail)に出会います。日本でも沖縄や小笠原では嫌と言うほど見る機会があるのですが、その他の地域の人には見慣れないカタツムリでしょう。



 本種は、名前からもわかるようにアフリカ大陸原産で、大きくなると大人の“こぶし”よりも大きい殻をまといます。軟体部も大きく、黒っぽい色がついていて、気持ち悪いと感じる人も多いでしょう。実際、広東住血線虫(かんとんじゅうけつせんちゅう)を体内に宿していることが多く、手で触れたまま物を食べたりすると危険でもあります(人の体内に線虫が入ると、好酸球髄膜炎 [こうさんきゅうせいずいまんくえん] などを引き起こし死に至ることもある)。


 本種は、もともと食用(ちなみにフランス料理のエスカルゴもカタツムリの一種)や薬用としてさまざまな地域に意図的に導入されてきた経緯があります。


 文献から導入時期や誰が持ち込んだかについて、主なものを挙げてみました(文献には他の地域も記されています)。


・ハワイ(太平洋):1936年(台湾からの旅行者が持ち込む)
・小笠原(太平洋):1937-1938年 (薬用目的で持ち込む)
・沖縄(太平洋):年代不明
・台湾(太平洋):1932-1933(シンガポールからK. Shimojoが持ち込む)
・グアム(太平洋):1941-1943年(ロタ島から植物と一緒に持ち込まれる)
・ポナペ島(太平洋):1938年(沖縄からカタツムリ養殖家が持ち込む)
パラオ(太平洋):1938年(日本からカタツムリ養殖家が持ち込む)
ビスマルク諸島(太平洋):<1945年(日本からの持ち込に日本軍が関与)
・マレーシア:1911年(スリランカから)
シンガポール(太平洋):>1917年(マレーシアから)
・タイ:<1937年(マレーシアから農民が持ち込む)
ニューギニア(太平洋):<1945年(日本からの持ち込に日本軍が関与)
・ホンコン:1937年(中国から農民が持ち込む)
スリランカ(インド洋):1900年(インド、モーリシャスから貝類学者O. Colletが持ち込む)
モーリシャス(インド洋):1800年?(マダガスカルから)
セイシェル(インド洋):<1840年モーリシャスから)


文献
Civeyrel L, Simberloff D (1996) A tale of two snails: is the cure worse than the disease? Biodiversity and Conservation 5: 1231-1252.


 古い導入履歴というのは、科学的なデータというよりは逸話的なものになりがちで、個々の記述がどこまで信頼性の高い情報かどうかはわかりません。とはいえ、太平洋地域には主に戦前、戦中に多くの地域に導入されたのは確かなようです。上の情報をもとにハワイにやってきた流れをおおまかに推定してみましょう。


かなり古くにインド洋のマダガスカルに持ち込まれており、そこからモーリシャス1800年頃)→スリランカ(1900年)→マレーシア(1911年)→シンガポール(1917年以前)→台湾(日本:1912-13年)→ハワイ(1936年)という流れが読み取れます。


注意すべきは、日本人が太平洋の島々に広めた役割の大きさでしょう。例えば、シンガポールから台湾に持ち込んだのも、台湾からハワイへ持ち込んだのもおそらく日本人でしょう(台湾はその時代日本の領土だったし、何より、カタツムリ養殖家のShimojoさんは明らかに日本の名前です)。また、日本軍が太平洋のさまざまな島々へ持ち込みに関係していた可能性があったようです(詳細はわからない)。


 以前ジンバブエからやってきた研修生が小笠原のアフリカマイマイを見て、現地では食べていると言っていました。しかし、沖縄でも小笠原でもハワイでも、そんな食用の伝統をもたない多くの地域では、食用としては定着することはありませんでした。むしろ農作物の大害虫として定着してしまいました。卵もたくさん産むし成長もはやいので、どんどん増えます。体が大きいですから、野菜など農作物を食べる量も半端ではありません。


衛生上、農業上以外にも、生態的な影響も無視できません。絶滅危惧種の植物を食べたり、在来の陸貝類の競争排除してしまうと言われています。さらに問題なのは、この種を防除するために導入した天敵についてです。この天敵がアフリカマイマイよりも、在来のカタツムリをむしゃむしゃと食べてしまうことになったからです。


 このように、見かけもさることながら、直接、間接的に、衛生上、農業上、環境上さまざまな負の影響を及ぼしてきたという意味で、陸上無脊椎動物の中で、最大最悪の外来種といえるでしょう。


 もともとアフリカでひっそりと暮らしてきた彼ら彼女ら(ちなみに雌雄同体)に責任は全くないのですが、人間とは自分勝手ないきものです。


 次は、アフリカマイマイを防除するために導入された天敵について紹介します(参照)。