世界の島々にみる世界遺産(自然遺産)

 日本の代表的な海洋島である小笠原諸島を、世界遺産(自然遺産)の登録候補として近々申請を行われるようです(ニュース)。


 自然遺産は、IUCN(国際自然保護連合)の評価によって、以下のいずれかの項目または複数の項目に該当する地域が指定されています(Wikipedia「自然遺産」を要約)。


(1)美的な最高の自然現象がおこる地域
(2)重要な生物、地形、自然地理的特性をもつ
(3)その動植物生態系は、進化学的、生態学的に顕著な見本となる
(4)生物多様性保全にとって重要な自然地域


 自然遺産の指定は、各国(行政)のとりくみなど政治的な色合いも強く、必ずしも科学的な意義があるとは限りません。しかし、研究の集積に基づき科学的に価値があると認定された地域でもあるので、研究が一般社会へ貢献した例としても捉えられるでしょう。


 島は大陸とは異なった生物相をもつため、その自然遺産としての価値が高いと考えられています。そこで、これまで世界の島々で自然遺産に登録されたものをみてみましょう。


 島の定義に従って、海洋島(一度も陸地につながったことがない島々)、大陸断片(旧大陸の切れ端だが、長期間隔離された島々)、大陸島(大陸と過去にしばしば接したことのある島々)の三つに分け、それぞれの海洋(大西洋、インド洋、太平洋、その他)にわけて見てみました。


 Wikipediaの「世界遺産」リストから島で自然遺産に登録されている箇所をリストアップして(文化遺産は除くが、複合遺産は含める)、世界地図に地点を落としてみました。



世界の自然遺産に登録された島々(Google を改変)
 黄色の点:海洋島(☆は小笠原諸島
 水色の点:大陸断片
 朱色の点:大陸島


海洋島


大西洋
スルツェイ島(Surtsey):アイスランド
セントキルダ島(St. Kilda):イギリス
マデイラ諸島(Laurisilva of Madeira):スペイン
カナリア諸島(Garajonay National Park, Teide National Park):スペイン
小アンティル諸島(Pitons Management Area, Morne Trois Pitons National Park):セントルシア、ドミニカ
ゴフ島とイナクセシブル島(Gough Island and Inaccessible Island):イギリス


インド洋
ハード島とマクドナルド諸島 (Heard Island and McDonald Islands):オーストラリア


太平洋
ガラパゴス諸島Galapagos Islands):エクアドル
ココス島(Cocos Island National Park):コスタリカ
ヘンダーソン島(Henderson Island):イギリス
ハワイ諸島(Hawaii Volcanoes National Park):アメリ
ソロモン諸島(East Rennell)
ロード・ハウ群島(Lord Howe Island Group):オーストラリア
マッコーリー島(Macquarie Island):オーストラリア
亜南極諸島New Zealand Sub-Antarctic Islands):ニュージーランド


大陸断片


大西洋
キューバ(Desembarco del Granma National Park, Alejandro de Humboldt National Park)


インド洋
マダガスカル(Tsingy de Bemaraha Strict Nature Reserve, Rainforests of the Atsinanana)
セーシェル諸島(Praslin Island, Aldabra Atoll):セーシェル
ソコトラ諸島(Socotra Archipelago):イエメン
スリランカ(Sinharaja Forest Reserve)


太平洋
ニューカレドニア(Lagoons of New Caledonia):フランス
北島(Tongariro National Park):ニュージーランド
南島(Te Wahipounamu - South West New Zealand):ニュージーランド


大陸島


大西洋
北アイルランド(Giant's Causeway and Causeway Coast):イギリス


太平洋
北海道(知床):日本
本州(白神山地):日本
南西諸島(屋久島):日本
済州島(Jeju Volcanic Island):韓国
パラワン島(Puerto-Princesa Subterranean River National Park):フィリピン
ボルネオ島(Kinabalu Park, Gunung Mulu National Park):マレーシア
スマトラ島(Tropical Rainforest Heritage of Sumatra):インドネシア
ジャワ島(Ujung Kulon National Park):インドネシア
コモド島(Komodo National Park):インドネシア
ニューギニア島(Lorentz National Park):インドネシア
タスマニア(Tasmanian Wilderness):オーストラリア
フレーザー島(Fraser Island):オーストラリア
カリフォルニア湾の島々(Islands and Protected Areas of the Gulf of California):メキシコ
コイバ島(Coiba National Park):パナマ


地中海
エオリア諸島(Isole Eolie):イタリア


参考ウェブサイト
Wikipedia「世界遺産」


 自然遺産の分布の偏りを見てみましょう。


インド洋の海洋島で指定されているのが少ないようです。また、太平洋は海洋島の多さにもかかわらず指定が少ないように感じます。フレンチポリネシアサモアの島々など、重要な海洋島が多くあるのですが。


西太平洋地域には、マリアナ諸島を中心に南北に海洋島が多く見られますが、いまだに指定されていません。その点でも、小笠原諸島が指定される意義があるでしょう。


大陸島では、東から東南アジアにかけて多くの島々が指定されています。もともと島が多い地域であるのであたりまですが、今後候補となるだろう琉球列島はその意義付けが難しいように感じます。すでに指定されている地域(屋久島)を拡張する形で、南西諸島として推薦してもよいかもしれません。海外では、指定地域が拡張された例や、国をまたいで指定している例もあります。


 しかし近年、自然遺産の本来の価値を揺るがす危機がある地域は、「危機遺産」と呼ばれるようになりました。ガラパゴス諸島が「危機遺産」のリスト入りしたように、外来種問題など、島での固有種や生態系の保全への取り組みが、指定には重要になりつつあるようです。