外来種が定着する/しないメカニズム:散布体の導入圧(Propagule Pressure)

 野に放たれた(逃げ出した)外来種のうち約10%が野外に定着するという法則があります(外来種の10%ルール)。


では、なぜ一部の外来種だけが定着に成功し、他は失敗するのか。

 
 そのメカニズムに関する仮説として、天敵解放仮説(Enemy Release Hypothesis)と生物的抵抗仮説(Biotic Resistance Hypothesis)をあげました。


しかし一方で、個々の外来種として定着するかどうかは、どれだけの個体数が、または何回持ち込まれたかが重要です。少数より多数の個体数が持ち込まれた方が、1回より複数回持ち込まれた方が、個体群として定着する可能性が高そうです。


これは「散布体の導入圧(Propagule Pressure or Introduction effort)」と呼ばれています。


ここでいう散布体(Propagule)は、野外に放す(逃げられる)時の生育ステージなどを指しており、鳥なら成鳥、昆虫なら主に成虫がこれにあたるでしょう。


さらに持ち込まれた(個体)数を「散布体の導入サイズ(Propagule Size)」、持ち込まれた回数を「散布体の導入回数(Propagule Number)」と呼んでいます。


 この導入サイズと導入回数は、外来種の定着を決定する重要な要因となるでしょう。


 意図せずに持ち込まれた外来種について導入サイズや導入回数を推定するには、定着した個体群と、原産地の個体群で、遺伝構造を比較するなど工夫が必要です。


一方、故意に外来種を放す試みは、一昔前には(今でも)世界中で多数行われてきました。例えば、害虫や害草を抑えるために導入する天敵昆虫(生物防除)や、食物資源として放すほ乳類や淡水魚、式典や宗教的な儀式で放す鳥類などなど、導入サイズや導入回数がしばしば公式に記録されています。


これらの記録を検討することで、散布体の導入圧が外来種の定着に及ぼす証拠を集めることができます。


 41の海洋島において、外来鳥類の定着成功にかかわる5つの要因の重要性を検討した。


(1)導入圧(放鳥個体数)
(2)競争圧(外来の捕食性哺乳類の種数)
(3)捕食圧(在来鳥類の種数)
(4)人為的攪乱(人口数、人の入植からの期間)
(5)生息地の多様性(面積、最高標高、大陸からの距離)


 結果、放鳥数が多いほど定着に成功する傾向があった。つまり、海洋島での外来鳥類では導入圧が最も重要な要因であった。また、外来鳥類は、捕食性哺乳類の種数が多い島ほど定着に失敗しやすい傾向も見られた。


文献
Cassey P, Blackburn TM, Duncan RP, Gaston KJ (2005) Causes of exotic bird establishment across oceanic islands. Proceedings of the Royal Society B 272: 2059-2063.


 他に、導入圧の重要性が明らかになっているのは以下の総説にリストアップされています。


 散布圧が外来種の定着に影響を与えていた証拠が得られたのは以下の事例があげられる。


分類群(地域):実験または観察:分析に使われた散布体の導入サイズまたは導入回数


アメンボ(フィンランド):実験:サイズ
生物防除目的の昆虫(カナダ):観察:サイズと回数
生物防除目的の昆虫(米国):観察:サイズ
ハムシ類(米国ニューヨーク):実験:サイズ
淡水魚(米国カリフォルニア):観察:サイズ
鳥類(ニュージーランド):観察:サイズと回数
鳥類(オーストラリア):観察:サイズと回数
鳥類(世界):観察:サイズと回数
キジ類(ニュージーランド):観察:サイズ
狩猟鳥(米国):観察:サイズ
ネズミ類(米国メイン):実験:サイズ
ハタネズミ(スウェーデン ストックホルム):実験:サイズ
有蹄類(ニュージーランド):観察:サイズ
鳥類とほ乳類(世界):観察:サイズ


文献
Lockwood JL, Cassey P, Blackburn T (2005) The role of propagule pressure in explaining species invasions. Trends in Ecology and Evolution 20: 223-228.


 導入圧の重要性が示唆されている研究は動物に偏っていますが、植物の散布体(種子など)でも同様に重要でしょう。