ハワイモンクアザラシの遺伝的多様性

 今日(金曜日)はセミナーの日。


 午前と午後は同じスピーカー(大学院生)によるものでした。前半は、主にレモンザメ類の系統地理、後半は Ph.D.Defense で、ハワイモンクアザラシの遺伝的多様性についてでした。いずれも分子データをもちいた研究で、成果はすでに論文として発表されているようです。


 こちらの大学院生は、いろいろなテーマでやっているなあ、といつも思います。これは、MasterとPh.D.の研究はそれぞれ別ものとしてまとめねばならないこと*1、また給料をもらう仕事としてのプロジェクトもやっていることの二点が関係しているのかもしれません*2。


 分野も違うし、英語も聞き取れないことも多いのですが(いまだ向上せず)、論文が出版されていると復習がしやすいのが良いところです。


 ハワイモンクアザラシは、北西ハワイ諸島から、主要ハワイ諸島にかけて分布する固有種です。この仲間には、チチュウカイモンクアザラシとカリブモンクアザラシがいるのですが、いずれの種類も19世紀以前の狩猟によって個体数が激減しており、前者は数百個体まで減っており、後者は50年ほど記録がないようです(絶滅)。ハワイモンクアザラシは千数百頭が残っているものの、近年個体数は減少しているようです。


ハワイモンクアザラシの画像集
http://images.google.com/images?client=safari&rls=ja-jp&q=hawaiian%20monk%20seal&oe=UTF-8&um=1&ie=UTF-8&sa=N&hl=en&tab=wi


 20年以上にわたって2409個体から採取されたサンプルについて、分子マーカーを用いて解析した結果、その遺伝的多様性は極めて低いことがわかりましたとさ(He = 0.03)。つまり、過去に個体数がかなり激減したことがあり、ボトルネック(びん首)効果がはたらいた結果、遺伝的多様性が減少したということのようです。しかも、ハワイモンクアザラシの遺伝的多様性は、ずっと個体数の少ないチチュウカイモンクアザラシ(He = 0.16)よりも低いらしい。さらに、ミッドウェーなど北西ハワイ諸島から、オアフ島、ハワイ島にいたる広範囲にわたって、遺伝的な交流はさかんで、この海域を頻繁に移動しているようです。よって、これらすべての海域は一つの個体群として保全していく必要があるそうです(ちなみに近交 inbreeding は今のところ起こっていないようです)。


文献
Schultz JK, Baker JD, Toonen RJ, Bowen BW (2009) Extremely low genetic diversity in the endangered Hawaiian monk seal (Monachus schauinslandi). Journal of Heredity 100:25-33.


 それにしても、ハワイの固有種で、しかも絶滅危惧のほ乳類で、さらに愛嬌のあるアザラシについての研究ということもあるのでしょう、50人以上が聞きに来ていました(多くは学外から?)。また、サメやアザラシのような大型の海洋動物の研究には、研究者、ダイバー、行政機関の人たちなど多くの人たちが関係しているからでしょう。


 動物学部と植物学部の大学院生はあわせて100人をこえるそうなので、月に1,2度は金曜日のセミナーで Ph.D.Defenseが開かれています。今後もいろいろなDefenseが聴けると思うと楽しみです。



*1 日本では、修士課程のテーマをそのまま博士課程でも継続してやる場合が多く、博士論文に修士論文の内容が含まれることがしばしば見られます。しかし、米国では、それぞれは別ものとして取り組むのが一般的なようです。したがって、Ph.D.Defense には、Master で行った研究は入っていないようです(Masterを経ずに最初からPh.D.の学生として研究に取り組む人もいるようです)。ただし、Masterで行った研究が出版されている場合は、Ph.D. Defenseで参考として紹介されていたりもするので、それなりにプラスにはなっているのでしょう。


*2 Ph.D.の研究とは別に、大学院生は別の研究プロジェクトに従事していることが多いようです。つまり、お給料のために別の研究プロジェクトに参加し研究室のアシスタントとして働いたりしている人が多いようです。例えば、今の研究室でハワイにおける外来の陸貝類の分布に関するプロジェクトの中心メンバーは鳥を研究している大学院生だったりする。もちろん、大学院生個人が申請して、機関から給料をもらってその研究を行う場合もあるようで、その形態はさまざまなようです。こうした別プロジェクトに取り組んだ過程や成果については、Ph.D. Defenseで参考として紹介されていたりもするので、それなりに重要なのかもしれません。