ハワイの珍奇なる虫たち(4)羽を失ったハエ

 ハワイやガラパゴスのような海洋島では、しばしば羽が退化して飛ばなくなった鳥が知られています。ハワイクイナ、ガラパゴスのコバネウ、モーリシャスドードーなどなど。昆虫にも、本来は飛翔能力が高いグループなのに飛ばなくなった種が知られています。


 アシナガバエ科(Dolichopodidae)は世界で約5000種ほどが記載されているが、飛翔能力を失った種はわずか12種しか知られていない。そのうち8種(75%)がハワイ固有種である。



Emperoptera mirabilis というハワイ固有種(前翅も痕跡的にしか残っていない)


Evenhuis NL (1997) Review of flightless Dolichopodidae (Diptera) in the Hawaiian Islands. Bishop Museum Occasional Paper 53: 1-29.


 ハワイで飛ばない動物が進化してきたのは、元来強力な捕食者がいなかったことが関係しているかもしれません。例えば、鳥の捕食者である大型ほ乳類は全くいませんでした。また、昆虫だと、アリがいなかったことは大いに関係しているでしょう*。しかし、これがために現在はびこっている外来の捕食者によって強い影響を受けてしまっているのです。


* 島の昆虫で飛翔能力の消失については、これまたダーウィンによって仮説が提出されています。「飛ばない形質の方が、飛ぶ形質よりも偶然に(風などに)島外(つまり海)に吹き飛ばされる可能性が低く島での生存により適している」という感じで、ダーウィンらしい。また、ウォーレスも飛ばない鳥について同じようなメカニズムを指摘しているそうです。しかし、飛ばない昆虫というのは島以外にも(高山など)いろいろな場所に出現していて、上記の仮説だけでは説明しきれていないのも事実です。詳しくは、世界中の飛ばない昆虫リストと、これまでに提出された仮説などをまとめた分厚いモノグラフが出版されているのでこちらを参考に・・・(たぶん誰も読まないだろうけど、昆虫学者なら一応は持っておきたい論文かも)。


Roff DA (1990) The evolution of flightless insects. Ecological Monographs 60: 389-421.