生態学にもいろいろな法則が知られていますが、たいていはその法則の是非について議論があるものです。しかし、その中でも、
「島の面積が大きくなると種数が増加する。」
という島の面積と種数の関係(Island Area - Species Numbers Relationships)は、誰もが認める普遍的な法則の一つでしょう(今のところ地球上に限りますが)。これは、島の面積が大きくなると、島に移り住んでくる種の移入率が増加し、島の中で絶滅する率が低下するというメカニズムによっておこると考えられています*1。しかもいろいろな生物(ほ乳類、鳥、昆虫、植物などなど)でこの傾向が見られ、さらに島だけでなく、島状のもの、陸地の中の池や湖、山頂部、木の洞の中の小さな水たまり、森林パッチ、葉っぱ、などなどいろいろなものに応用できると言われています*2。
さて、外来種の種数もまた島の面積とともに増加するようです。
南半球の25の海洋島(温帯かより冷涼な島)を対象に、維管束植物、昆虫、陸鳥、海鳥、ほ乳類について、その在来種数と外来(帰化)種数が、どのような環境要因(島の面積、氷河のない面積、標高、島の年齢、陸地からの距離、気温、人の入植開始時期、人口、それぞれの生物の種数など)によって決定されているかを調べた。
在来種数の変動は、維管束植物で面積と気温の組み合わせ(56%:説明された割合)、昆虫で陸地からの距離と維管束植物の種数(75%)、海鳥で面積とクロロフィル濃度(65%)、陸鳥で在来昆虫種数と島の年齢(73%)で説明された。
外来種数の変動の多くは、面積と気温の組み合わせによって決まっていた:外来維管束植物種数(73%)、外来昆虫種数(69%)、外来ほ乳類種数(69%)。ただし外来陸鳥種数は、在来昆虫種数と維管束植物種数(大陸からの距離と相関あり)によっておもに説明されていた(70%)。
面積と人口の関係には強い相関関係があり、大きな島ではより多くの人が集まり、それによって外来種の散布体の移入リスクが高まること、そして、気温の増加は散布体の定着率を高める可能性がある。
南半球の海洋島のように、温帯域にある島では、近年高まるエコツーリズムの増加と、温暖化の影響で、ますます外来種が増加するかもしれない。
島が大きくなると人口が集中しやすく、それによって外来種の持ち込みの回数も増加し、それだけ外来種が多く定着するということを示しています。以下の論文でも同様に、面積が増加すると人口とともに様々な分類群の外来種数が増えているようです。「島の面積が増加すると外来種が増える」という傾向はかなり普遍的なパターンのようです。
大陸内(北米大陸)の様々な植生区域におけるそれぞれの面積に対する種数を見た場合でも、在来種数と同様に外来種数も面積に対する増加が確認されています。つまり、島に限らずより広い意味で一般性のある現象かもしれません。
*1 島の平衡理論によれば、遠い島の方が近い島よりも移入率が低いため、平衡種数は遠い島の方が近い島より少なくなります。
この理論の集大成として、 R.H. MacArthur と E.O. Wilson による The Theory of Island Biogeography があり、生態学、生物地理学の分野ではあまりに有名です。そして、フロリダの小さな島を燻蒸して生物相を除去してその移入と絶滅過程を追うことで、実際の島で平衡理論を実証したのがD. SimberloffとこれまたE.O. Wilsonです。
もちろん以後の知見などをコンパクトにまとめたものとして、いつもあげている以下があります。日本語でもすべての生態学の教科書には出ているはずです。
*2 ただし山頂部では、Brown(1980)が、北米のGreat Basinの7500ft(約2300m)以上の高山域の面積とほ乳類の種数との関係を調べ、確かに面積が大きくなると種数は増加するが、すべてのほ乳類は更新世の頃に移入してきたレリック(遺存種)で(現在の移入はなく)、面積に依存した絶滅率だけでこのパターンが生み出されていることを示しています(つまり、移入と絶滅の平衡理論によっては説明されなかった)。