群集が収斂する:ハワイのアシナガグモ

 ハワイの生物としてクモをとりあげることが多いような気がします(網を使わず爪で狩るクモクモの笑顔もいろいろ)。ハワイのクモを材料に勢力的におもしろい論文を書いている研究者がいるからでしょう。ちょうどニュージーランドでも話題にされています


 自然界から切り出した種の集まりにはそれなりの規則がありそうだ、という話です。


 ハワイの主要島には、Tetragnathaという属のアシナガグモが16種分布しており、それぞれ(1)緑色、(2)栗色、(3)茶色の大型、(4)茶色の小型といった区分けで4つの生態タイプに分かれる。(1)緑色タイプの種は、活動的で葉上で飛翔力のある昆虫を捕えて食べる。(2)栗色タイプはコケ上を徘徊し飛翔力のない昆虫を捕えて食べる。(3)茶色の大型タイプは、動きは鈍く樹皮下に生息し主にガの幼虫を食べる。(4)茶色の小型タイプは、動きは活発で小枝上に生息し非常に小型の飛翔力のある昆虫を捕えて食べる。


 カウアイ島、オアフ島(2カ所)、モロカイ島、ラナイ島、マウイ島西部、マウイ島東部(3カ所)、ハワイ島(5カ所)において、4つの生態タイプの有無を調査したところ、いずれの場所でも2タイプから4タイプが観察され、各場所の1つの生態タイプには2種以上が見つかる場所は皆無であった(下図参照)。これらの生態タイプは一度進化して各島に分散したいったのか、また何度も独立に進化した結果として類似した生態タイプが各島に見られるようになったのだろうか。いずれかの仮説が正しいかを明らかにするために、DNA(ミトコンドリア、リボゾームなど)とアロザイム解析のデータを使って系統関係を推定した。結果、古い島(カウアイ島)の種群は最も初期に分化し、より新しい島に分布している種は比較的最近に分化していた(つまりprogression rule に従っていた)。つまり、祖先種が古い島で分化し、それらの種が新しい島へと分散しさらに分化していた。しかし、生態タイプは、何度も独立に進化してきたことが明らかになった(栗色タイプ、茶色大型タイプ、茶色小型タイプはいずれも少なくとも2回ずつ)。例えば、同じ栗色タイプでも、島が異なればそれぞれの種同士は必ずしも類縁関係にはなかった。



図:群集組成(@Geology.comの地図と論文の図をもとに描く)。円の中の各色は生態タイプを示す(ただし濃い茶色は茶色大型タイプ、薄い茶色は茶色小型タイプ、白は該当生態タイプは不在を示す)。またそれぞれのアルファベットは種を示し、同じアルファベットは同種、異なれば別種を意味する。各円の各タイプには多くても1種類が見られるだけだ(2種以上見られる場所はない)。


 以上のようにハワイのアシナガグモの種の集まり(species assemblage)はランダムに形成されているのではなく、分散と適応進化を通じて類似した集合パターンへと収斂していた。また、島あたりの種数や種分化の頻度は、島の年齢や面積とは明確な相関関係にはなかった(参考)。例えば、最大種数は、マウイ島東部(最も古いカウアイ島より新しく、最も新しいハワイ島よりは古くて小さい、中間的な歴史とサイズの島)にあった。これは、種の移入(種分化)ー絶滅の平衡理論との関連を示唆している*。つまり、島への移入と島内での種分化を通じ急速に種数が増加すが(ハワイ島)、徐々に増加しながら平衡点を超え(マウイ島)、その後減少する(カウアイ島)*。


文献
Gillespie R (2004) Community assembly through adaptive radiation in Hawaiian spiders. Science 303: 356-359.


 アシナガグモの生態タイプをクモの色と大きさで分けて表現しているのがこの論文のポイントかもしれません。群集組成を色分けで図にするとわかりやすいということです(上図参考)。どの島の山にいっても、2から4タイプが見られるというのも色で判断できるならイメージしやすいというわけです。小笠原諸島のカタマイマイでも、主要な島には、地表性、半樹上性、樹上性の生態タイプの種が見られ、それぞれの島で独自に進化してきたらしい。海洋島ではこのような生態タイプの収斂が起こりやすいのか、それとも観察しやすいのかもしれません。



*Simberloff と Wilsonの島における移入ー絶滅の平衡理論の実証研究(唯一の野外実験)でも、小さな島を燻蒸し陸上動物を0にした後、初期は急速に移入によって種数は増加したが、平衡点付近(燻蒸前の種数)では徐々に増加し、後減少するという傾向が見られた。


Simberloff DS, Wilson EO (1969) Experimental zoogeography of islands: the colonization of empty islands. Ecology 50: 278-296.