外来種同士の新しい関係

 虫好きの人にとってはツノゼミはとても気になる昆虫です。熱帯域ではツノゼミの多様性や個体数が多いことはよく知られていますが、その存在はアリとともに認識されると言ってよいでしょう。アブラムシとアリ、カイガラムシとアリの共生関係と同様、ツノゼミもまた甘い排泄物を出してアリを誘い天敵から身を守ってもらいます。そんなツノゼミが、ハワイにもいます。3種ほどが記録されていますが、もちろんすべて外来種です。


しかしハワイには元々アリがいなかったわけですから、誘われるアリもまた外来種です。先月観察したツノゼミの一種Antianthe expansa)には小型のアリ、アシジロヒラフシアリが訪れていました。このツノゼミは、北米からやってきた種であるのに対し、アリの方はアジア地域からやってきた種です。つまり、新大陸の種と旧大陸の種が、その間の島であるハワイで出会ったというわけです。



ツノゼミの一種 Antianthe expansa(右の緑色の個体が成虫で他は幼虫)とアシジロヒラフシアリ


 生物の食べる食べられる関係(捕食ー被食関係)や、持ちつ持たれつ関係(共生関係)は、進化的な長い時間をかけて選抜されてきた関係といえるでしょう。ところが、近年ヒトの活動によって、新しい関係が次々と生み出されつつあります。


一つは外来種と在来種との出会いです。そしてもう一つが、別の場所からやってきた外来種同士の出会いです。これらは、これまで関係をもったことのなかった種間での関係です。


これらの出会いによってバランスが崩れ、お互いの個体群に影響を与えて片方が絶滅してしまうこともあるでしょう。しかし一方で、新しい出会いにもかかわらず、お互いの個体群を維持しながら(同じ場所に生息し続ける意味で)共存する場合もありえます。


人為的にせよ種間での新しい出会いの結末がどうなるかは、各種の進化的な背景や生息してきた環境によるでしょう。


以前は「外来種」の研究自体に特に興味を感じていませんでしたが、この点に注目することで、外来生物に関する基礎的な研究への関心が湧いてきたように思います。