現存する最大の陸上動物といえばゾウでしょう。現在はアフリカとアジアに分布しています。島に分布するゾウといえば、現在はスリランカ(セイロン島)、ボルネオ島、スマトラ島から知られていますが、かつてはいろいろな島に分布していたことが(新生代後期の)化石によって明らかになっています。日本にもアケボノゾウが生息していました。
北米:北部チャンネル諸島(サンタクルス島、サンタローザ島、サンミゲル島)
地中海:キプロス島、ロードス島、クレタ島、ティロス島、デロス島、ナクゾス島、クレタ島、セリフォス島、マルタ島、シシリア島、サルディニア島
アジア:フィリピン(ルソン島、ミンダナオ島)、スラウェシ島、フローレス島、チモール島、日本列島
ゾウといえば陸上動物の代表でしょうから、島へは陸橋を歩いて渡って分布を広げていったというのが考えやすいでしょう(つまり、Vicariance モデルの考え方)。
例えば、北米はカリフォルニア沖にあるチャンネル諸島(大陸から現在約30kmの距離)には、完新世初期(11,000年前くらい)まで小型マンモスの一種 Mammuthus exilis が分布していました(参考:島の法則)。このため、これらの島々はかつて大陸と陸橋によって陸続きになった時期があったと考えられてきたわけです。
しかし、これを裏付ける地質学的な証拠はなく、マンモスの分布によって陸橋の存在が推定されてきたというだけです。
陸橋を歩いて渡ってきた以外の可能性はないのでしょうか。
実はゾウというのは、とても泳ぎが上手であることはそれほど知られていなかったようです。現在では、Google や YouTube で実際に泳いでいるゾウの画像や動画を容易に見ることができます。
Elephants swimming
海で泳ぐゾウ(長い鼻をシュノーケルのように使っている)
ゾウは一般に泳ぎが下手であると考えられてきたため、その島における分布は、過去に陸橋が存在したという仮定によって説明されてきた。しかし、ゾウは島に泳いで渡ることが可能なほど長距離を泳ぐ。
アフリカおよびアジアにおいて、ゾウの遊泳行動について現地でのヒアリングや文献収集を行ったところ、野生状態でも多数の観察例が見いだされた。例えば、スリランカ沖では(近くの小島に渡るために)泳いでいるゾウが度々観察されており、その行動が写真にも記録されている。
スリランカ沖を泳ぐアジアゾウ(セイロンゾウ)(Johnson 1980より)
野生状態の観察から、ゾウはその長い鼻をシュノーケルのように使っており、その遊泳速度は1.0-2.7km/hであった。
また、19世紀に北米大西洋沖(陸地から48km 離れた海上)で、突風により船外に落ちてしまったゾウが港までたどりついたという話が新聞に掲載されている。野生状態でないにせよ、48kmの距離を泳いだという記録である(上述のチャンネル諸島には渡れる距離)。
以上の証拠により、ゾウは比較的長距離を泳ぐことが可能であり、陸橋だけが島に渡る手段ではないことを示すだろう。
ちなみにゾウが海を泳ぐのは、その良い視力で沖の島をとらえることができ、島にある食物の匂いをかぎつけることができるからかもしれない。
陸上生活を行う哺乳類でも、分散手段として「泳ぐ」というのはかなり一般的なのかもしれません(参考:泳いで海を渡るネズミ)。
ところで、上に載せたゾウの泳いでいる白黒写真をみて何か気づかないでしょうか。
ネス湖の怪獣「ネッシー」を思い浮かべませんか。
何でも、1930年代、とあるサーカス団が休日にしばしばゾウ(インドゾウ)をネス湖で泳せていたとか・・・。有名な1934年の写真もゾウの鼻っぽいです。
文献
Clark NDL (2005) Tracking dinosaurs in Scotland. Open University Geological Society Journal 26:30-35.(入手できず未読)