アリのいなかった島(3)花外蜜腺を失った植物たち

 アリは高緯度地域から低緯度地域にゆくに従い、種数だけでなく個体数も多くなっていきます。アリはシロアリと並び、熱帯の動物バイオマスの大半をしめる優占種です。アリの増加とともに、熱帯ではアリと共生関係をもつ植物が多くみられるようになります。その中でも最も一般的なのが、花外蜜腺(かがいみつせん)と呼ばれる、花以外から蜜を分泌する器官をもつ植物がいます。種類によっては、葉、芽、茎、萼、果実などの特定部位から蜜をだし、主にアリをボディーガードとして呼び寄せ、植食性昆虫の食害から身を守ってもらうと言われています。



ヒメギンネムの葉柄にある花外蜜腺とそれに集まるクロヒメアリ


 ところが、ハワイ諸島は熱帯域に属するにもかかわらず、人が入植する前にはアリが分布していなかったと言われる特殊な場所です(参考:アリのいなかった島1)。そのため、多くの生物が、本来熱帯地域で見られるはずのアリとの種間関係をもたずに進化してきました。中でも、ハワイ産の植物で花外蜜腺をもつものはほとんどいません。


 ハワイ諸島に生育する維管束植物について、各種が花外蜜腺をもつかどうかを、野外、文献、植物標本庫での各調査によって明らかにした。結果、ハワイでの固有種のうち、わずか11種(固有種全体の0.8%)しか花外蜜腺をもっていなかった。さらに、非固有の在来種(6種)をあわせても、在来種全体の1.2%にすぎなかった。


花外蜜腺をもつ種の割合


固有種:0.8%(11/1384種)
在来種:12.5%(6/48種)
ポリネシア人導入種:27.3%(6/22種)
外来種:4.6%(218/4719種)
合計:3.9%(241/6183種)


 この値は、他の熱帯地域と比べても極端に低い割合である。例えば、コスタリカの乾燥熱帯林では20-80%、ジャマイカでは28%、ジャマイカでも28%の植物が花外蜜腺をもっていた*。


 このような現象はハワイでは本来ボディーガードとなりうるアリがいなかったことと関係している可能性が高い。つまり、祖先種が花外蜜腺を持っていたと考えられるグループでも、ハワイで分化する間に花外蜜腺を消失させてしまったのかもしれない。


しかし、花外蜜腺をもつ固有種もわずかながら生育している。例えば、コアAcacia koa)、ハイビスカス類(フヨウ属:Hibiscus spp.)、コキア類(Kokia spp.)などがある。この要因として、もともと祖先種が持っていた形質が何らかの系統的な制約があり残っている可能性、そしてアリ以外のボディーガードがいる(いた)可能性が考えられる(しかし観察の結果、現在有力なボディーガードは見つかっていないので、絶滅したのかもしれない)。


文献
Keeler KH (1985) Extrafloral nectaries on plants in communities without ants: Hawaii. Oikos 44: 407-414.


 もちろん現在のハワイでは、外来種のアリが花外蜜腺を訪れる姿を観察することができます。


*最近の総説では、熱帯の植物のうち14.8-53.3%が花外蜜腺をもつことが報告されています。


参考文献
Bentley BL (1977) Extrafloral nectaries and protection by pugnacious bodyguards. Annual Review of Ecology and Systematics 8:407-427.


Blüthgen N, Reifenrath K (2003) Extrafloral nectaries in an Australian rainforest: structure and distribution. Australian Journal of Botany 51: 515-527.


Oliveira PS, Freitas AVL (2004) Ant-plant-herbivore interactions in the neotropical cerrado savanna. Naturwissenschaften 91: 557-570.


Keeler KH (2008) World list of angiosperms with extrafloral nectaries.