島で木になる植物:海洋島でのロベリアの進化

 「この木、なんの木、気になる木〜♪」の歌で有名な日立のCMの木は、実は、ハワイで撮影されているとか(現在5代目で、1、2、5代がハワイで撮影された木)。しかし、この木、もともとハワイに生えていないアメリネムノキです。もっと、ハワイらしい木を使ってほしいものですが、迫力ある樹型は、弱々しいハワイ在来の植物では望むべくもありません。

 ハワイで「木」になる木があります。普通の島や大陸では草なのに、ハワイや小笠原の海洋島では、木本化する植物のことです。キク科やキキョウ科、スミレ科の仲間で知られています。ガラパゴスのスカレシア(キク科)や、小笠原でのワダンノキ(キク科)、オオハマギキョウ(キキョウ科)が木本化している代表的な植物です。この、オオハマギキョウは、Lobeliaという属に入っているのですが、ハワイには何とこの仲間が、100種類以上知られています。

 ハワイでロベリアにはまだ出会っていませんが、今ハワイで気になる木の一つです。今後に出会えるのを期待して、最近発表されたハワイ諸島でのLobeliaの進化に関する論文を読んでみました(紹介してくれた京都のKさんに感謝)。

 ハワイのロベリアは、6属126種が知られていて、ハワイでの適応放散の最も代表的な例としてとりあげられてきた。種ごとに、森林、高地、崖などさまざまなハビタットに生育し、その形態的な多様性も著しく、そのため、6属に分類され、ハワイ諸島には3〜5回にわたって別々に侵入した歴史をもつとも考えられてきた。しかし、太平洋の島々の中には、ロベリアの分布を欠く場合も多く、ハワイの隔離度の高さからその起源の回数は多すぎるとも考えられる。


 ハワイの固有ロベリアのすべての属を代表する23種と、以前から祖先種候補や近縁種として考えられてきた15種を加えて、分子系統解析を行った(領域と手法は下記論文を参照)。その結果、ハワイのロベリアは、一つにまとまり、一度の侵入の後、諸島内で適応放散したことが示された。極めて多様な形態は、ハワイで起こった進化であったわけである。さらに興味深いことに、果肉のついた果実の進化はハワイ諸島内で起こっており、固有鳥類が種子散布を担っている(た)のだろう。ただし、鳥による花粉媒介(鳥媒)や木本化という性質は、ハワイにたどりつく前から持っている形質であるようだ。


文献
Givinish TJ, Millam KC, Mast AR, Paterson TB, Theim TJ, Hipp AL, Henss JM, Smith JF, Wood KR, Sytsma KJ (2008) Origin, adaptive radiation and diversification of the Hawaiian loveliads (Asterales: Campanulaceae). Proceedings of the Royal Society B (doi:10.1098/rspb.2008.1204)



 個人的に気になるのは、小笠原のオオハマギキョウの系統的な位置でしょう(解析に含まれていた)。ポリネシアの島々(Marquesas IslandsやAustral Islands、Society Islands)の種群にまぎれていて、この結果からは詳しい起源についてはよくわかりません。



 興味深かったのは、データは示されいませんが、一部の種でスズメガによる花粉媒介がハワイ諸島内で進化したことと、オオハマギキョウが、鳥媒の多い中で、ハナバチによる花粉媒介が進化している点です(写真は小笠原のオオハマギキョウの花を訪れるオガサワラクマバチ)。しかし、これは小笠原では固有の鳥類の多くが絶滅してしまっているからかもしれません(今では外来種メジロはよく訪れている)。
 
 本研究によって、ロベリアはハワイ諸島へのただ一度の侵入から多くの種へと種分化したことが確かめられました。しかし、一方で、ロベリアはハワイに来るずっと以前からすでに木であったようで、「ハワイ諸島で木本化した」というのは見直されるかもしれません。