ハワイの珍奇なる虫たちシリーズの3回目でとりあげたハワイカザリバガ類(Hyposmocoma)ですが、続編が米国科学アカデミーの紀要に最近発表されたようです。
ハワイで数百もの固有種に分化したカザリバガですが*1、幼虫がカタツムリを食べる肉食の種類や、渓流といった水中生活へと適応した種が知られていました(参考:カザリバガの驚くべき生態と多様性)。
幼虫が水生の種ですが、よくよく調べてみると、陸上でも水中でも両方で生活可能なことがわかったそうです。ただし、水中の幼虫を調べても、身をまとうケースに空気を保持しているわけでも、幼虫にエラがあるわけでもないようです(詳しくは明らかにされていませんが、溶存酸素量の多そうな渓流にのみ棲んでいるので直接水から酸素を得ている可能性が示唆されています)。
分子系統樹を描くと、少なくとも3つの系統群*2で水中生活に適応したものが現れたとのこと。つまり、独立に何度も水中生活の種が分化してきたということです。しかも、水中生活への進出は、およそ600万年前から起こったと推定されており、これは、現在最も古い主要島であるカウアイ島(およそ510万年前に形成)より古いことになります(参考:ハワイ諸島の形成史)。つまり、ハワイカザリバガの歴史がはじまったのは、現在の主要6島ができるよりもずっと古い(北西ハワイ諸島が主要島であった頃から)時代なのでしょう。
Science News
Hawaiian caterpillars are first known amphibious insects
なお、Science News やナショナルジオグラフィックニュースでもとりあげられているように、水陸の両方で生活する昆虫のはじめての発見とありますが、この「はじめて」はちょっと微妙かもしれません。卵から蛹化まで陸上でも水中でもいずれでも可能なのかも、まだよくわかっていないようです。いずれも数日間生育可能という程度なら、他にあてはまる昆虫がいるようにも思えます(半陸生のヤゴとか)。興味深い生態であるのは確かですが、論文では、水陸両用の生態を詳細に調べたというよりも、分子系統樹をもちいた水生種の分化の方に研究の重点がおかれています。とはいえ、こういうアピールをうまくストーリーに組み込むのが、有名雑誌に載せたり一般誌への話題につながる秘訣なのかもしれません。