島の法則 Island Rule(1)動物の巨大化と矮小化

 島では、大陸の個体群または近縁種に比べ、小型動物では体サイズが増加し(巨大化:Gigantism)、大型動物では体サイズが減少する(矮小化:Dwarfism)ことが知られています。


 具体例をあげましょう。チャンネル諸島にかつて生息していたマンモスは大陸(カリフォルニア)にいた種と比べ小型であったことが知られています。また、マダガスカルに生息していたカバもアフリカ大陸の祖先種に比べ小型だったそうです。逆に、ガラパゴスのゾウガメやイグアナは、島で大型化した例かもしれません。インドネシアのコモド島周辺に生息するコモドオオトカゲも巨大化した例といえるでしょう。ニュージーランドのモア、モーリシャスドードーも大型化に含まれるかもしれません。


 この現象は、最初 J.B. Fosterによって1964年に発表されました。以後、「フォスターの法則(Foster's Rule)」や「島の法則(Island Rule)」と呼ばれています(島嶼化とも訳されるようです)。


 島に生息する哺乳類について、最も近い大陸の近縁種(または個体群)と比較したところ(116例)、ネズミ類では矮小化より巨大化が、食肉類では巨大化よりも矮小化が、偶蹄類では矮小化が起こりやすいことが明らかになった。


 島環境では、大型動物にとって餌資源が少なく、小型個体の方が大型個体に比べて生存に有利な状態が生じやすいのに対し(矮小化)、小型動物にとっては、天敵による捕食圧や他種との競争が減少し、大型個体の方が小型個体に比べ繁殖力が高くなると考えられた(巨大化)。


文献
Foster JB (1964) Evolution of mammals on islands. Nature 202: 234-235.
(オリジナルは読んでません)
Quammen D (1996) The Song of the Dodo


 最近ではより広い分類群を用いて定量的に解析されています。


 島に生息する個体群に対して、最も近隣の大陸(または大きな島)の個体群の体サイズ(雄の重量)を横軸にとり、その体サイズに対する島個体群の体サイズの割合(Si)を縦軸にとってその関係をみる。Siが横軸に対して常に1.0をとっている場合は島と大陸とで体サイズは同じであることを示す。つまり、回帰直線を引いた時、傾きが0より小さい場合はIsland Ruleに従うが、傾きが0また0より大きい場合は従わないとする。これらを、哺乳類384個体群について調べ、さらに分類群(目、科、または亜科)ごとに調査した。



Island Rule モデル(つまり島では小型動物では小さく、大型動物では大きくなる)


調査した分類群(Nは調査個体群数:*は傾きが0より大きく、それ以外は0より小さかった)


(1)すべての哺乳類(N=384)
(2)陸上個体群(N=365)
(3)有袋類オポッサムオポッサム科(N=8)
(4)食虫目全体(N=38)*
(5)食虫目トガリネズミ科(N=35)
(6)ウサギ目ウサギ科(N=20)
(7)齧歯目全体(N=240)
(8)齧歯目リス科(N=25)
(9)齧歯目ネズミ科(N=186)
(10)齧歯目ネズミ科ハタネズミ亜科(N=44)
(11)齧歯目ネズミ科ネズミ亜科(N=24)*
(12)齧歯目ネズミ科アメリカネズミ亜科(N=118)
(13)齧歯目ネズミ科ポケットマウス亜科(N=19)
(14)食肉目全体(N=63)
(15)食肉目(陸生)(N=44)
(16)食肉目(水生の餌)(N=19)
(17)食肉目アライグマ科(N=11)*
(18)食肉目イヌ科(N=14)
(19)食肉目イタチ科(N=17)
(20)食肉目レッサーパンダ科(N=15)
(21)偶蹄目シカ科(N=14)


 結果、*(食虫目、ネズミ亜科、アライグマ科)以外の分類群すべてで Island Rule に従っていた。


 同様にその他の脊椎動物についても過去の文献データから調査したところ、オオコウモリ類、鳥類、ヘビ類、オーストラリアの有袋類、カメ類についても基本的には Island Rule に従っていた。


 以上の結果、従来考えられていた以上に、脊椎動物における Island Rule は一般性の高い現象であることが明らかになった。


文献
Lomolino MV (2005) Body size evolution in insular vertebrates: generality of the island rule. Journal of Biogeography 32:1683-1699.


 次回に続きます・・・