アボカドとメガファウナ

 ハワイに来てアボカド(avocado:Persea americana)をよく食べます。日本ではほとんど食べた機会がなくて、米国のカリフォルニア巻きと呼ばれるお寿司に使われる食材くらいの知識しかありませんでした*1。しかし、アボカドを使ったハンバーガーやサンドウィッチを食べるようになって、イメージが一新されました。


 普通にスーパーで売られていますが、緑色と黒っぽい色の両方が混在しています。もちろん、黒っぽいのが熟しているので、買ってすぐに食べられます(緑色はまだかたくて食べるのに適していない)。



熟したアボカド(中には巨大な種子)


 ハワイで売っているアボカドは男性拳くらいの大きさで、半分に割ると中にはピンポン玉サイズの硬い種子が入っています。緑色の果肉部分をスプーンですくってパンに塗ったりして食べるわけです。舌触りはトロっとしていて、味は甘くはありません。したがって、デザートに食べる果物というわけではありません。


日本人的には、デザートとして食べないアボカドやトマトは「野菜」に分類しがちで、ついつい「野菜では一番好きなんだ」と言ってしまうと、ネイティブに「いや、アボカドもトマトもフルーツ(fruit)だ」と訂正されてしまいます。「デザート=フルーツ」という思い込みからなかなか抜け出せません。


 ともかく、アボカドは「fruit」です。もちろん、アボカドは人間の食用に栽培化されてきたわけですが、かつては野生に生え、なんらかの動物によって散布されていたと考えるのが生態学を志す人の習慣でしょう。しかし、アボカドの種子はピンポン玉サイズの大きさで、これが食道、腸を通過することを考えるだけでお尻が痛くなってしまいそうです。種子を飲み込まずにその場で果実を齧るだけだと、(霊長類を除けば)遠くに散布されることは望むべくもありません。つまり、アボカドを丸呑し、大きな種子を排泄できるだけの(少なくとも人間よりも大きな)動物の存在を妄想してしまうわけです。


 アボカド(クスノキ科)は中米原産の熱帯樹です。種子がメキシコの紀元前8000-7000年の遺跡で発見されていることから、新熱帯で最も初期に栽培された果樹である可能性が高そうです。アメリカ大陸に人間がやってきたのは13000年前のことです。当初狩猟採集を行っていた人類は、アボカドの果実を集め、散布し分布拡大に一役買ったのは間違いないでしょう。では、人類がやってくる前にはどういう動物によって散布されていたのでしょうか?


 北南米の両大陸には、かつてメガファウナ(megafauna)と呼ばれる大型動物類が生息していました。現存するメガファウナといえば、アフリカのゾウやキリンなどを想像してもらえば良いかと思います*2。北米にはかつてマンモスが生息ていたのは以前にもふれました(参考:ゾウは泳ぐ:島への分散説からネッシー説まで)。他には、巨大な地上性ナマケモノメガテリウム Megatherium)が有名です*3


ナマケモノは今も昔も植物に餌を依存している動物です。そう、かつて実在した巨大ナマケモノこそ、アボカドの果実食者であり種子散布者であった可能性があるのです。メガテリウムは体長が5mを超え、体重が数トンはあったそうなので、アボカドくらいの果実・種子サイズなら軽く丸呑・排泄できたことでしょう。



メガテリウムこと巨大ナマケモノWikipediaより)


 そんなオオナマケモノたちも、新しく新大陸にやってきた人類によって滅ぼされ、アボカドの種子散布者もとって代わられたのかもしれません。


文献
Galindo-Tovar ME et al. (2008) Some aspects of avocado (Persea americana Mill.) diversity and domestication in Mesoamerica. Genetic Resources and Crop Evolution 55:441-450.


 南米には絶滅したメガファウナによってかつて種子散布を行われていたと考えらる果実が多く見られるそうです。メガファウナ散布果実に特有のシンドロームがあれば確かに興味深いことです。


 なぜ、新大陸のメガファウナの多くが絶滅し、アフリカ大陸では残っているのか。アフリカは人類が生まれた大陸なので、人類ーメガファウナの捕食被食関係の歴史の長さが関連しているのかもしれません。


参考文献
Guimaraes PR et al. (2008) Seed dispersal anachronisms: rethinking the fruits extinct megafauna ate. PLoS ONE 3(3): e1745.


人類と動植物関係の歴史については Diamond の名著は欠かせない
銃・病原菌・鉄 ― 1万3000年にわたる人類史の謎


参考サイト
メガファウナの大陸別絶滅数・生存数
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4170.html

*1:「アボガド」と呼び間違えやすいのは、日本だけではないみたい。学校で習うアボガドロ数と混同しやすいのかも。

*2:哺乳類なら1000kg以上、時に44kg以上など、メガファウナの定義は場合によるようです。

*3:ご存知のように現存するナマケモノはすべて樹上性です