全生物は単一祖先種から進化してきたか

 ダーウィンの「種の起源」の訳本を読んで、考察の深さに大変感銘をうけたのは昨年末のことでした(参考:「種の起源」を読んで)。


特に最後に全生物の祖先種に関する考察は特筆すべきものでした。再度引用しておきます。


動物はせいぜい4種類か5種類の祖先に由来しており、植物はそれと同じかそれよりも少ない数の祖先に由来していると、私は信じている。


類推をさらに働かせるならば、すべての動物と植物は、ある一種類の原型に由来していると信じるところまで踏み込める。しかし類推は偽りへと導くこともある。それでもすべての生物には、化学組成、胚胞、細胞の構造、成長と生殖の法則などで多くの共通性がある。そのことは、同一の毒素が植物と動物で同じように効くとか、タマバエの分泌する毒素によってノバラでもオークの木でも奇怪な虫こぶができるといった些細なことにおいてすら確認できる。したがって私は類推から出発して、地球上にかつて生息していたすべての生物はおそらく、最初に生命が吹き込まれたある一種類の原始的な生物から由来していると判断するほかない。


新訳「種の起源(下)」394-395ページから引用


 すべての生物がたった1種の生物から進化してきたことを思えば、今でもその考え方に衝撃を受ける人も多いでしょう。もちろん、この仮説を完全に証明することは難しいのですが、さまざまな証拠から支持されつつあるようです。


ナショナルジオグラフィックスのニュースから。
全生物は同じ単細胞生物から進化した
(原著論文は Theorbald DL 2010 Nature


 生物が複数の祖先種から進化してきた可能性、例えば、1種が真正細菌に、もう1種が古細菌と真核生物に進化したという確率を計算すると、とてつもなく低いものだったようです(10の2680乗分の1)。


 ただ、過去から現在にわたって出現してきた生物の多様性を考えると、単一祖先種から進化してきたという説も、2,3の祖先種から進化してきたという説もどちらも同じくらい驚くべきこととのように感じます*1


 ちなみに、ヒトが全く独立に創造されたという仮説(創造論)も検討されたようで、その確率はさらにずっと低かったそうです(10の6000乗分の1)。ただし、神を信じる人はその想像できないほどの確率の低さを喜んで受け入れるような気もします。奇跡が起こることをお願いする相手の神様こそ、さらに奇跡的な存在であると考えてもおかしくないからです*2

*1:生物に似ているが生物とはされないウィルスについても、生物とは独立に現れたのか、または生物に由来するのか議論がわかれるところです。

*2:もちろんこれまで生まれ落ちた全人類の中からキリストが出現した確率は10の6000乗分の1よりもずっとずっと大きな率ですが