外来種

アリのいなかった島(2)海鳥のヒナを襲う外来アリ

今日は午後に Ph.D. Defense(博士論文公聴会)がありました。 ハワイ諸島にはもともとアリがいなかったことが知られていますが、現在では多くの種が侵入し(参考)、在来生態系に影響を与えていると考えられています。その影響の一つとして、海鳥のヒナがア…

生物的防除の成功率

問題となる外来種の個体群を低密度に抑える(コントロール)するために、原産地から天敵を導入するという(古典的)生物(的)防除は、どれくらいの率で成功しているのでしょうか。 持ち込まれた外来種のうち10%が野外に逸出し、その10%が定着し、定着した…

生物的防除が落とした影(5)スペシャリストを用いても危険?

今日は研究室のミーティングで論文紹介をすることになったので、最近勉強中の生物(的)防除のリクスに関する論文を紹介してみました。 これまでの事例から、いろいろな種の天敵となるようなジェネラリストを生物防除目的に導入してしまうと、本来ターゲット…

生物的防除が落とした影(4)ハワイでの是非をめぐって

害虫を防除するためにその天敵を放す生物(的)防除(Biological Control、Biocontrol)*は、ターゲットとしない種にまで影響を及ぼす可能性があります。特に、ハワイ諸島のようなもともと天敵が少ない環境下では多数の固有種が、生物防除によって放たれた…

生物的防除が落とした影(3)タヒチでカタツムリが大量絶滅?

陸産貝類(いわゆるカタツムリ)は、特に島では固有種が多くその移動能力の小ささや分布域の狭さから、世界でも最も絶滅しやすい生物群の一つです(参考:世界で最も絶滅してしまった生物とは・・・)。 絶滅の主要因として、人が島に入植した時代では生息地…

外来種による間接効果

外来種が在来種に影響を与えるというのは、直接捕食したり、干渉したりするのを直接的な効果(Direct effects)とするなら、第三者を介した影響を間接効果(Indirect effects)とよんでいます。外来種問題は、近年、この間接効果を念頭におかないと、外来種…

島から外来種を除去する順番

外来種が生態系に与える問題点を考えるとき、その外来種は他の外来種や在来種とも深く結びついていることを念頭におく必要があります。個体数が増加した外来種の場合はなおさらでしょう。 以前に、外来種のネコとネズミ、そして保全対象となる海鳥を考えたと…

島に侵入した外来アリが固有鳥類による種子散布を阻害する?

植物の果実がしばしば色鮮やかに目立つのは、動物に食べてもらってその中に含まれる種子をよそに運んでもらうためでしょう。とくに、鳥は、さまざまな植物の果実を食べ、その移動能力の高さから、優秀な種子散布者といえます。 インドネシアの海洋島・クリス…

御器被(ごきかぶり)

日本には、カタツムリを食べるマイマイカブリという甲虫がいます。「マイマイ(カタツムリ」を食べるときにその殻を被っているように見えることから、「マイマイカブリ(蝸牛被)」という名前ができたようです。 同様に、ゴキブリも「御器(ごき:食器)」を…

ドラッグの植物誌

「米国内で流通するドル紙幣の90%がコカインに汚染」されているらしい(ナショナルジオグラフィックニュース)。 流通過程でごくごく微量のコカインが付着しているようで、日本でも12%の紙幣に確認されているので、世界中に広がっているのでしょう。 ハワイ…

捕食性カタツムリ・ヤマヒタチオビ

低気圧(ハリケーン Felicia)の影響はまだ続いているようです。湿度が高くて、日本の梅雨のようです。しかし、カタツムリやナメクジたちにとっては絶好の天候で、屋外にはたくさんのカタツムリやナメクジが見られます(もちろん外来種ばかり)。特にアシヒ…

広東住血線虫は危険か?

外来種としてしばしば問題になるアフリカマイマイやネズミ類は、広東住血線虫(かんとんじゅうけつせんちゅう)の宿主にもなります。この線虫はアフリカマイマイやネズミ類の移出入とともにさまざまな地域に広がったと考えられます。 しかし、広東住血線虫が…

島の外来ネズミ類:侵入の歴史、生物相に与える影響、駆除

通常、野生のネズミは、大型捕食者の餌となったり、樹木の種子散布に貢献していたり、生態系の維持にさまざまな役割を果たしていることはよく知られています。しかし、もともとネズミがいなかったような環境下では、生態系のバランスを著しく壊してしまいま…

ニッチ保守性(Niche Conservatism)

ニッチ保守性(Niche Conservatism)という用語の定義と使用について勉強してみました。 ニッチ(生態的地位)とは、種が生息可能で、個体群を維持できる状態のことを指します。その状態には、非生物的な要因(気候など)と生物的な要因(競争、捕食)の両方…

社会性昆虫のいなかった島:外来スズメバチの脅威

ハワイ諸島は、太平洋の真ん中から出現した海洋島で、しかも他の陸地から数千kmも離れているため、そこにたどりつく生物はごく限られていました。例えば、ハワイくらい温暖な地域ではどこでもいるアリ類が分布しなかったと言われているのはその一例でしょう…

外来種が定着する/しないメカニズム:散布体の導入圧(Propagule Pressure)

野に放たれた(逃げ出した)外来種のうち約10%が野外に定着するという法則があります(外来種の10%ルール)。 では、なぜ一部の外来種だけが定着に成功し、他は失敗するのか。 そのメカニズムに関する仮説として、天敵解放仮説(Enemy Release Hypothesis)…

海洋島での外来種定着頻度

島への人の行き来によってどれだけの種が持ち込まれ、定着しているのでしょうか。ハワイのような人口が多くひっきりなしに人が行き来する島では調査するのは困難でしょう。 しかし、海洋島の中には、その隔離度の高さと地形から人を滅多に寄せつけてこなかっ…

外来種の10%ルール

外来種というのは、本来生息していない場所で、(1)人によって持ち込まれた種(Imported)、(2)そのうち野外に逸出した種(Escaping)、(3)完全に定着した種(Establishing)、(4)さらに害虫や害草など環境にも影響を与える種(侵略的な種 Becomi…

外来種同士の新しい関係

虫好きの人にとってはツノゼミはとても気になる昆虫です。熱帯域ではツノゼミの多様性や個体数が多いことはよく知られていますが、その存在はアリとともに認識されると言ってよいでしょう。アブラムシとアリ、カイガラムシとアリの共生関係と同様、ツノゼミ…

美味しい外来植物

先日山に行ったら、フトモモ科のストロベリーグアバ(Psidium cattleianum)の果実が赤く熟していました。手に取って食べてみたら、甘酸っぱくて美味しい。果実を集めてジャムをつくっている人もいるとか。 ハワイでは、ブラジルから持ち込まれたものが帰化…

両生類のいなかった島:カエルに食べられた鳥

今日のセミナーは、ハワイ固有の水鳥であるハワイセイタカシギ*の研究についてでした。 Wikipediaより セイタカシギですから、もちろん湿地に生息し、繁殖もそこで行われます。ふ化率は比較的高いにも関わらず、ヒナの死亡率が極めて高いようで、マングース…

最近侵入した甲虫

先日大学内で拾った甲虫(3050 Maile Way, Honolulu, HI; 6 Apr. 2009) 。どうもオオナガシンクイ(Heterobostrychus hamatipennis)の♂のようです。昔、京都の伏見稲荷でよく拾ったやつです。懐かしい。 ハワイの節足動物チェックリスト(2002)に掲載され…

島で外来捕食者を駆除する時の注意点:‘Mesopredator Release’に関連して

一般に、開発などによって森林が孤立化したり断片化すると、真っ先に姿を消すのは、生息に比較的大きな面積が必要な最上位捕食者(大型捕食者で、トラとかピューマとか)であることが経験的に知られています。最上位の捕食者がいなくなることで、群集にはど…

世界で最も研究されている外来種

一般に、経済的、衛生的、生態的に強い影響を与えている外来種ほど研究が行われやすいでしょう。しかし、外来種の中には、帰化したもののずっと低密度で生息しているものもあれば、急に爆発的に増え大きな影響を与えるものもあります。さまざまな外来種に関…

小笠原の外来種問題とその対策

何度かふれていますが、小笠原諸島は、ハワイ諸島と同じく海洋島で、多くの固有種が知られているとともに外来種による強い影響を受けています。ハワイに来る前に参加していたプロジェクトに関連して、「地球環境」という雑誌の特集号として、小笠原諸島の外…

島が大きくなると外来種数も増える

生態学にもいろいろな法則が知られていますが、たいていはその法則の是非について議論があるものです。しかし、その中でも、 「島の面積が大きくなると種数が増加する。」 という島の面積と種数の関係(Island Area - Species Numbers Relationships)は、誰…

泳いで海を渡るネズミ

本来分布しないはずのネズミが人間の活動を通じて侵入し、島の生物相や生態系に与える影響は深刻です(参考)。ネズミ類は、在来植物の種子を食害し更新を妨げたり、在来鳥類の卵やヒナ、また昆虫、陸貝を捕食したりします。また、島に限らず、ネズミ類は悪…

生物的防除が落とした影(2)ハワイの導入寄生蜂

アフリカマイマイ防除のために放ったヤマヒタチオビが、固有カタツムリたちを滅ぼす結果になったことは一つの悲劇でした(生物的防除が落とした影 1)。 ハワイは、害虫にとって天敵がいない天国のようなところですから(天敵解放仮説)、その農作物への被害…

クリスマス島のお護り:固有のカニ red crab

在来捕食者が、外来種の侵入を防ぐという考え方については、biotic resistance hypothesis(生物的抵抗仮説)として紹介しました。最悪の外来種・アフリカマイマイの侵入を、島の固有種が防ぐという研究があります。 クリスマス島という海洋島がインド洋にあ…

食べる方から見た場合:植食者は外来植物を好んで食べるか?

外来植物が在来植物より食べられやすいか、また食べられにくいか、という話は、植物側から見た話です。一方で、植食者(植物を食べる動物)から見て、外来植物と在来植物のどちらを好んで食べのか、同じなようですが少し違います。つまり、植食者にも外来種…