世界で最も研究されている外来種

 一般に、経済的、衛生的、生態的に強い影響を与えている外来種ほど研究が行われやすいでしょう。しかし、外来種の中には、帰化したもののずっと低密度で生息しているものもあれば、急に爆発的に増え大きな影響を与えるものもあります。さまざまな外来種に関する研究が蓄積されていれば、いろいろなことが予測できるかもしれません。それには、さまざまな分類群でいろいろな地域で調べられている必要があります。


 1980年から2006年までにWeb of Science(論文データベース)で検索した外来種に関する研究論文2670本から地理的、分類学的な偏りがあるかどうかを調べた。


 外来種892種の内訳は、植物48.3%(緑色植物44%、藻類2%)、無脊椎動物36.3%(昆虫18%、甲殻類8%、軟体動物5%)、脊椎動物14.7%(魚類8%、ほ乳類3%、鳥2%)。


外来種数と研究数との関係をみると、ヨーロッパや北米に比べて、南アフリカを除くアフリカ大陸やアジア(おもにユーラシア大陸)、海洋島などが相対的に研究数は少なかった。つまり、外来種研究について、地理的な偏りは大きかった。このように、外来種の侵入過程についての特定地域に基づいた知識に偏りをなくすためにも、国際的な協力が必要である。


強い影響を与える外来種に関して最も研究されていた。外来種帰化してから侵略的になるまでの過程をより理解するためにも、帰化しているが侵略的になっていない外来種についても研究するがあるだろう。


付表. 1980年から2006年にかけて最も研究されていた外来種トップ10(括弧内は研究数)


1. カワホトトギスガイ Dreissena polymorpha(64)
2. アルゼンチンアリ Linepithema humile (61)
3. ヤグルマギクの一種 Centaurea maculosa (39)
4. ヒアリ Solenopsis invicta (38)
5. エゾミソハギ Lythrum salicaria (37)
6. イチイヅタ Caulerpa taxifolia(31)
7. ヨシ Phragmites australis(30)
8. ギョリュウの一種 Tamarix ramosissima(26)
9. カゼグサの一種 Spartina alterniflora(24)
9. ガーリックマスタード Alliaria petiolata(24)
9. イガヤグルマギク Centaurea solstitialis(24)

(原著論文付表では他に下位38種をリストアップ)


文献
Pysek P, Richardson DM, Perg J, Jarosik V, Sixtova Z, Weber E. (2008) Geographical and taxonomic biases in invasion ecology. Trends in Ecology and Evolution 23: 237-244.


 ちなみにハワイ諸島だけで、26種について50の研究があったのに対し、太平洋の他の島々の合計は20種について37、インド洋の島々では21種32、大西洋の島々では15種16という感じで、ハワイ以外の島での外来種の研究はやや少ないようです。ただ、研究の多寡は、その島に研究機関や拠点があるかどうかに依存している気もします。