食べる方から見た場合:植食者は外来植物を好んで食べるか?

 外来植物が在来植物より食べられやすいか、また食べられにくいか、という話は、植物側から見た話です。一方で、植食者(植物を食べる動物)から見て、外来植物と在来植物のどちらを好んで食べのか、同じなようですが少し違います。つまり、植食者にも外来種と在来種があるので分けて考える必要があります。


(1)在来植食者は、外来植物を好んで食べるのか、また食べないのか。
(2)外来植食者は、外来植物を好んで食べるのか、また食べないのか。


 前回、カナダにおける外来植物と在来植物の15のペアで、葉の被食率が比較されました。そのとき、ヤガの一種の幼虫に外来植物と在来植物を食べさせ、幼虫の生存や成長に与える影響が調べられました(差はなかった)。同様な、広い食性をもつ植食者を用いて実験を行うことで、在来植食者と外来植食者が、外来植物と在来植物のどちらを好んで食べるかを明らかにすることができます。


 アメリカ合衆国南部で、同所的に生える、在来水草57種と外来水草15種で、在来アメリカザリガニ2種と外来の淡水魚1種(ソウギョ)による水草の好みを調査した。結果、在来ザリガニ2種では、在来水草より外来水草の方を好んで食べていたが、外来魚の好みに違いはなかった。また、系統的に近い10の外来種と在来種のペアを使って、2種の在来ザリガニによる好みを比較したところ、8割のペアで、在来ザリガニは外来種の方を好んで食べた(つまり系統による影響はなかった)。


 また、既存研究を精査し再解析した結果、在来バッタ3種すべては在来植物より外来植物を好んでいたのに対し、外来ナメクジ3種では好みに違いはなかった。


 以上の結果をまとめると、在来の植食者(上記のザリガニ、バッタ)では在来植物より外来植物を好んで食べているのに対し、外来の植食者(上記のソウギョ、ナメクジ)では好みに違いはなかった。このように、外来植物は原産地でともに進化してきた植食者(天敵)からは逃れるかもしれないが、侵入地では、広食性の在来植食者には好んで食べられるかもしれない(biotic resistance)。


文献
Parker JD, Hay ME (2005) Biotic resistance to plant invasions? Native herbivores prefer non-native plants. Ecology Letters 8: 959-967.


論文による答えは以下の通りです。

(1)在来植食者は、外来植物を好んで食べる。
(2)外来植食者は、外来植物を好んで食べない。

 
 では、この植食者の好みが、実際外来植物を相対的に増やしているのでしょうか。上の論文では、選択実験による単なる「好み」を調査しただけです。野外条件下で、実験的に在来植食者や外来植食者を除去した時に、植物群落内での外来植物の相対的なアバンダンス(つまり相対的な量)がどのように変化するのかを調べる必要があるでしょう。以下の論文では、その野外操作実験をまとめ、その傾向を示しました。


 100種の外来植物を含む63の野外操作実験のメタ解析を行い、在来植食者と外来植食者による外来植物に与える影響を明らかにした。つまり、植食者の除去実験を行った文献を集め、その結果(外来植物の植物群落における相対的なアバンダンスが増えたかどうか)を定量的に解析した。


 結果、在来植食者は、外来植物の相対的なアバンダンスを減らしていたが、外来植食者は外来植物の相対的なアバンダンスを増やしていた。つまり、在来植食者は外来植物を強く抑えており(biotic resistance)、外来植物は外来植物を増やしていた(invasional meltdown*1)。

 
 在来植食者は外来植物を抑える重要な抵抗性(biotic resistance)をもっているが、近年の在来植食者から外来植食者への置き換わりは、外来植物の侵入を促進する(invasional meltdown*1)きっかけになるだろう。



文献
Parker JD, Burkepile DE, Hay ME (2006) Opposing effects of native and exotic herbivores on plant invasions. Science 311:1459-1461


*1 ‘invasional meltdown’ は、外来種同士の相互作用によって侵入や定着がより促進されるという現象を指します。以前に紹介した、外来植物が外来動物によって送粉や種子散布を行ってもらうことで定着していることもこの現象に含まれます(以前のページに ‘invasional meltdown’ の定義を追記しておきました)。今回の話では、外来動物が、外来植物の競争相手である在来植物を食べることで、外来植物の増加が促進されていることを示唆しています。