外来種の侵入地での動向を左右する要因を調べることは、外来種管理という応用的な観点から重要なのはもちろんですが、基礎的な観点から(生態学的にも)非常に興味深いテーマであるわけです。
外来植物*1で具体的な研究を紹介します。
外来植物と在来植物で、その葉の被食率を測定して比較してみます。もし外来植物の被食率が低ければ、enemy release hypothesis(天敵解放仮説)*2を支持する結果となるでしょう。
一方で、同じ植物といっても、例えば、外来種として裸子植物を、在来種として被子植物を比較するのでは、あまりに分類群が離れすぎているので、厳密な比較になりません。そこで、同じ属の外来種と在来種を比較してみたのが、以下の研究です。
カナダ(オンタリオ)の野外に見られる30種の草本植物を使って、同属(または近縁属)の帰化種と在来種の15のペアで、その葉の被食率を比較した。結果、驚くべきことに、15のペアのうち11で、帰化種の方が、在来種より被食率が高かった。つまり、enemy release hypothesis は支持されなかった(逆のパターン)。また、ヤガの一種の幼虫に、在来種と帰化種の葉を食べさせ、幼虫の成長や死亡率に与える影響を調べたが、両者に有意な違いはなかった。つまり、帰化植物の防御は在来植物より強いという証拠はなかった。
つまり、同じ属の帰化種、在来種では、葉に含まれる防御物質も似ているので、その食べられ方に違いがなかったということでしょう。
しかし、帰化種といっても、低密度で定着している種と、旺盛に繁茂し害草となっている種とがあります。外来種の繁栄の程度を Invasiveness(侵略性)と呼んでいますが、これに注目して、侵略性の高い帰化植物と、低い帰化植物で、被食率を調べてみたのが以下の研究です。
北米(オンタリオ、ニューヨーク、マサチューセッツ)の野外条件で、侵略性の高い帰化植物と低い帰化植物のそれぞれ9種において、葉の被食率を比較した。その結果、侵略性の高い植物は、低い植物に比べ、ほとんど葉は食べられていなかった。また、侵略性の高い帰化植物と低い帰化植物で、在来植物相に同じ属を含む割合を比較したところ、大きな違いはなかった。つまり、系統的な影響はほとんどなかった。このように、外来植物の中に、在来植食者にとって化学的に新規な防御物質が含まれている場合、それらの種は天敵から解放され(enemy release)、侵略性を発揮するのかもしれない。
外来植物の場合、帰化するかどうかは、繁殖過程(送粉や種子散布、栄養繁殖の有無)が重要でしょう。天敵(植食者)は、その成長過程に強く影響するという意味でも、帰化した植物の侵略性に影響を与えているというのはありえそうな話です。
*1 何度も説明していますが、外来種(移入種)の中で、自然に定着したものを帰化種と呼んでいます。したがって、外来種(移入種)問題というのは、しばしば人間の管理下から逸出した帰化種に関する問題です。イネも元々は日本には生えていなかった外来種(移入種)ですが、帰化種ではありません。また、外来種(移入種)という言葉は、帰化している種としていない種の両方を含む場合があるので混乱しがちです(私もしばしば区別していません)。さらに日本では、明治以降に持ち込まれた種を外来種や帰化種として定義することもあり、これも話をややこしくしているかもしれません。
*2 偶然にも enemy release hypothesis を検証する内容の論文の査読依頼が届きました。現在投稿している雑誌から査読依頼があるのは、ままあることです。しかし、その人質(投稿中の論文)は無事解放されるとは限らないところがポイントです(以前、人質の方はリジェクトされました・・・)。ちなみに査読論文の材料は植物ではなくとある軟体動物の寄生者についてです。