研究留学

 異国の地で一定期間留まって研究に従事することをここでは研究留学と呼ぶとします。研究者を志すなら、一度はこの研究留学を体験しておきたいものです。しかし、研究留学がどういうものか、大学生や大学院生の頃から事前に知っておくのは大切なことだと思います。将来研究留学する気がなくても、いつ気が変わるかわかりません。私自身、大学生・大学院生の頃は、研究留学することへの憧れはあっても、実際に留学することになるとは夢にも思っていませんでした。しかし、就職してから、新しく関わらざるを得なくなったテーマについて改めて勉強するために・・・、いや本音を漏らせば、とにかく現状から逃げ出したいという消極的な思いから研究留学に至ったのが実情でした。しかし実際に研究留学を経験してみて、もっとはやくから、いろいろなことを知っておくべきでしたし考えておくべきでした。そんな消極的な理由ではなくとも、強く研究留学をしたいという人の方が多いかもしれません。しかし、そういう人でも研究留学とはどういうものか、具体例をなるべく多く聞いて有益な情報が増えるのに悪いことはありません。


 ということで前置きが長くなりましたが、研究留学について経験者に直接伺ってみようという講演会を企画をしてみました。日本生態学会の関東地区会主催のシンポジウムという枠組みを使わせていただいたので、分野は生態学ですが、その他の学問分野にも関連することも多いと思います。3人の研究者に話をしていただきます。お二方は日本から海外へ、もうお一方は海外から日本への研究留学ということで、少し違った角度から話を伺いたいと思います。


日本生態学会や関東地区会の会員でなくても無料で参加できるようですので、興味のある若い学生の方におすすめです。すべて野外調査(フィールドワーク)を軸に研究されている方なので、海外ならではの自然や生き物についての話を伺うのも楽しみです。


詳しくは↓のページを御覧ください
日本生態学会関東地区会2013年公開シンポジウム
生態学者の研究留学


稀な種とは何か

 私が昆虫少年だった頃、昆虫図鑑に「稀(まれ)な種」という記述をみるだけで、その種に憧れをもち、いつかは採集してみたいと感じました。逆に「普通種」という記述は、どんなに格好が良くてもその種を色あせたものにしてしまいました。


しかし、生態学を学ぶようになってくると、普通種の魅力、重要性にも気づくようになってきました。普通種は生態系の中で重要な役割を果たしていたり、また経済的な問題を引き起こすことも多く(農林業害虫など)、生態学の基礎・応用の両方から重要な種といえます。何より、生態学的に意味のあるデータをとるためにはある程度個体数が多い種を選ばないと論文も書きにくいという実利的な面もあります。一方、稀な種が学問的には重要ではないわけではなく、少なくとも希少種の保全という観点から(つまり保全生物学的には)同じく重要だと考えられます。そして、かつて昆虫少年だった身としては稀とされる種を見つけるだけで今でも心躍ります。


しかし、そもそも普通種(common species)と稀な種(rare species)を分ける定義は何でしょう? アオサギのようにどこにでもいる種類と、トキのように限られた場所に少数だけが生息している種類がある場合は明らかでしょう。つまり、相対的に個体数が少ないものを「稀な種」と一般的には考えています。しかし、大型の哺乳類や鳥とは異なり、小型の昆虫類の場合は、その定義がなかなか難しいことが多いのです。


 具体的な例をあげてみましょう。私が大学院の頃、とある京都の二次林において、モチツツジとコバノミツバツツジという2種類の植物上で、植物体を摂食する完全変態昆虫の幼虫類を3年間毎週のように採集し続けました。結果、モチツツジでは3976個体61種、コバノミツバツツジでは1370個体49種が採集できました。それぞれの植物種上で、横軸に個体数が最も多い種から順番に並べ、縦軸に各種の個体数をプロットします(種ランク−個体数関係:rank abundance curve*1



植食性昆虫の種ランク−個体数関係


 このグラフをみると、一部の種類が群集全体の個体数の多くを占め、多くの種がわずかな個体数を占めているだけであることがわかります。モチツツジとコバノミツバツツジでは厳密には異なりますが、大きくは同じパターンを示しています。この対象をいろいろな生息域、生物群集、つまり、干潟の鳥群集や、溜池の底生動物群集、温帯林の樹木群集にあてはめても一貫して見られるパターンです(ただし、一般的には同じ栄養段階に属している群集が対象)。


このようにある一定時期、一定の場所で一定の方法で行われた調査によって得られたサンプルから、相対個体数を求め、各種の「稀さ」を推定できるのですが、問題も多くあります。例えば、本来はコナラなどの高木層の葉を主に食べる個体数の多い種類が、樹上からたまたま低木層にあるモチツツジ上に落ちている場合があります。いろいろな樹木の葉を食べるが、コナラが好きで極稀にしかツツジの葉を食べない種類の場合、その場所では、明らかに普通種でも、ツツジ上で調べる限りは「稀な種」になってしまいます。つまり「ツツジ上でのサンプリング」という手法によって「普通種」が「稀な種」になってしまった例といえるでしょう。


別の例として、平地でクヌギの樹液に集まる昆虫の群集を考えてみましょう。カナブンやカブトムシ、ノコギリクワガタコクワガタは比較的多く見られますが、マイマイカブリアオカナブンの個体数は少ないものです。ではこれらの種は「稀な種」なのでしょうか? 厳密には違います。マイマイカブリは地表を徘徊してカタツムリを食べていますが、稀に樹液を舐めにやってくるだけです。アオカナブンは平地よりも山地に生息しているため平地の樹液には集まりにくいだけです。逆に、地面に穴を掘ってカップを設置するピットフォールトラップという落とし罠による調査では、マイマイカブリなどのオサムシが多く採集されるけれど、クワガワタムシ類はわずかにしか採集されないでしょう。


このように、本来の生息場所や時期が異なる種や、異なる採集法によって見かけ上の「稀な種」が生まれます。そこそこ個体数が生息しているが、人間による限られた採集方法では探知できておらず、そういう種類は「稀な種」と認識されている可能性があるというわけです。


 では、熱帯林などで問題となっている稀な種についてはどうでしょうか。熱帯林などにおいて、いくらサンプリング(採集)を繰り返してもいつまでも種数が飽和しない現象は節足動物類でよく知られています。特に、徹底的な調査にも関わらず1個体しか得られない種は「単一個体種」(シングルトン:singleton)と呼ばれており、この単一個体種の多さが熱帯における高い種多様性を特徴づけていると言われてきました(単一個体種が多いと「種ランク−個体数関係」のグラフの右側のテールが長くなる)。しかし、本当にそのような極端に少ない個体数が存在するのでしょうか? この単一個体種の多さは熱帯生態学においての重要な謎とされてきました。


 熱帯における節足動物類の群集研究のうち、採集総個体数、総種数、「単一個体種」の種数が記録されている71の研究を調査した。結果、「単一個体種」は総種数のうち平均31.6%を占めていた。


 この「単一個体種」の高い割合をもたらす要因を明らかにするために、ガイアナの熱帯低地林1ha (100m×100m)から10日間にわたる徹底的な調査によって、クモの成体5965個体352種を採集した。結果、「単一個体種」は101種で全体の割合29%を占めた。


 クモ類で「単一個体種」の高い割合をもたらす要因として、以下の5つの要因を調査した。


検討した仮説
1)「単一個体種」は小型種が多く見つかりづらい
2)「単一個体種」は雌よりも移動しやすい雄が多い
3)「単一個体種」の各個体は0.25haから1haよりも広いスケールで分布している
4)「単一個体種」は探知しづらい隠蔽個体が多い
5)「単一個体種」は単なるサンプリング不足


結果
1)「単一個体種」はむしろ相対的に大型な種であった
2)「単一個体種」には性比の偏りがなかった
3)入れ子状に配置された0.25haのサブプロットごとの「単一個体種」数に違いはなかった
4)分類群(科)間で「単一個体種」の相対頻度に違いがなかった
5)観測種数(352種)は、推定種数(Chao1:443種;対数正規分布:694種)より大幅に低く、サンプリング不足が示唆された。


 個体数と種数の関係(相対種個体数:relative species abundance)は、対数正規分布*2への当てはまりがよく、100万〜200万個体、約700種の群集からのランダムサンプリングによるシュミレーションでは、真の「単一個体種」はわずか4%と示唆された。


 また71の既存研究について、サンプリングを行う頻度が高いほど、「単一個体種」の割合は減少していた。



サンプリング強度と「単一個体種」の割合の関係


 以上の結果、クモ類での「単一個体種」の高い割合は、サンプリング不足による可能性が高い。


文献
Coddington JA (2009) Undersampling bias: the null hypothesis for singleton species in tropical arthropod surveys. Journal of Animal Ecology 78:573-584.


 「単一個体種」の高い割合がサンプリング不足にすぎなかったという結論でした。とはいえ、その生じる要因を詳細に調べた優れた群集生態学の研究だと感じました。そもそも、「単一個体種」の割合が高いのは熱帯林だけに限りません。先の私が調べたツツジの研究でも、モチツツジで34.7%(17種)、コバノミツバツツジで31.1%(19種)もの「単一個体種」が含まれていました。つまり、温帯熱帯に関わらず比較的種数の多い群集から現実的なサンプリングを行う場合、多くの見かけ上の「単一個体種」を検出してしまうのだと思います。


 そもそも「群集」は研究者、調査者が多かれ少なかれ恣意的に切り取った断片(snapshot)にすぎないわけで、現れる群集パターンというのはその「切り取り方のパターン」を反映しているだけかもしれません。群集研究者は、1980年ごろよりこの可能性を除去するために、ランダムに形成したモデル群集(帰無モデル)を創出し現実の群集と比較して何とか「自然の」パターンを抽出しようと努力してきました(参考:チェッカー盤分布をめぐる論争)。


それでも適切な帰無モデルを作ることができているのか不安はあります。種の分布をランダムに配置しても説明可能という群集が多く存在し、そもそもランダムな群集は論文として発表されにくいので過小評価されやすいかもしれません。


 群集生態学は、この「サンプリング問題」と常に向き合っていかないといけないわけです。

*1:縦軸は相対個体数をとることが多いですが、ここでは1個体のみの種を示すために単なる個体数の対数をとっています。

*2:相対種個体数(relative species abundance)が対数正規分布への当てはまりが良いことは古くから知られていましたが、Hubbell(2001)はゼロサム多項分布への当てはまりがより良いことを指摘しました。そもそもHubbellの想定した群集は、熱帯林のように林冠が閉じ個体数が飽和したようなものを想定しているのに対し、クモなどの節足動物群集では個体数が飽和しているイメージがなくこの前提には当てはまらないので対数正規分布が妥当な気がします。このあたりの研究の歴史はかなり重要なので、いつかは解説したいところですが、Hubbellの本が翻訳されているので、これを読むのが一番手っ取り早いと思います→「群集生態学―生物多様性学と生物地理学の統一中立理論」(S.P. Hubbell)

他種との相互作用なしに生息する種は存在する

 先日の特集記事で種間相互作用の普遍性を紹介する時に、「他種との相互作用なしに生息する種は存在しない」と書いたのですが、例外があることを今さらながら知りました。


One-Organism Ecosystem Discovered in African Gold Mine
「たった1種の細菌からなる生態系」、地下約3.2kmの水中で発見


原典は2008年のサイエンスの論文です。


論文
Chivian et al. (2008) Environmental genomics reveals a single-species ecosystem deep within earth. Science 322:275-278.


 まさに地球はまだまだ奥が深いと感じました。

「種間相互作用の島嶼生物地理」の特集記事

 かの大震災から1年と9ヶ月。地震が起こったのは、札幌開催の生態学会において自身が企画していた「種間相互作用の島嶼生物地理」での講演の最中でした(参考:「種間相互作用の島嶼生物地理」を企画)。その企画集会の内容をもとに、学会の和文誌に特集記事として、講演者4人によって執筆したものが出版されました。



 このように特集記事をまとめるのははじめでしたので、参考までに簡単にその流れを書き留めておきます(もちろん、学会によって異なると思います)。まず、私自身が学会における集会を企画し、講演をして欲しい人に打診し承諾を頂いた時点で企画案を大会の担当者に申請しました。無事企画が受理され、その後和文誌編集長の方から、企画内容を特集記事としてまとめてみる可能性があるかどうかを打診されました。講演者の方々にその旨を伝え、特集記事としてまとめる承諾を得て、改めて特集記事の企画を編集部の方に申請し受理されました。そして企画集会が開催され、その後締め切りを決めて原稿を集め、相互にチェックし合った後、まとめて投稿しました。それからは通常の論文投稿の流れ(担当編集者、2名の査読者によるコメント、改訂)を経て受理されました。なかなか予定通りにはいかず、和文誌は年に3号の発行ですが、当初の計画よりは半年くらいは遅れました。しかし、こうして無事掲載されてホッとした次第です。


日本生態学会誌 62巻3号:313-350頁(下記のアドレスから無料でPDFをダウンロードできます)
http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN00193852/ISS0000485113_ja.html


特集:種間相互作用の島嶼生物地理


1)種間相互作用の島嶼生物地理
2)絶対送粉共生はいかに海を渡ったか―コミカンソウ科−ハナホソガ属共生系の島嶼生物地理
3)オカダトカゲの色彩パタンの進化―捕食者に対応した地理的変異―
4)展望:島嶼生物地理学で拡散共進化を紐解く
5)種数−面積関係の展開:種間相互作用ネットワークと生息地面積との関係


 個人的にはこのブログでも度々解説してきた種数−面積関係(下記参考)について、「種数−面積関係の展開:種間相互作用ネットワークと生息地面積との関係」としてまとめる機会がもてたのはよかったです。このブログは自分勝手に柔らかめに書いていますが、学会誌では論文を読んで審査してくれる方(査読者)がいるため、比較的堅めに書かれているかと思います。より専門的な観点から興味のある方には役立つかもしれません*1


 生態学関連の研究者にとっては英語論文のみが重要視されていますが、少し異なる分野の勉強には日本語の方がわかりやすいものです。自身の研究をわかりやすい形でまとめておくことは、一般の人たちに限らず少し異なる分野の同業者にとっても有用だと信じますし、和文誌の存在意義もそこにあるように思っています。


種数−面積関係についてこれまでとりあげてたきた内容
島面積と種数の関係:メカニズムのまとめ
島が大きくなるほど種分化がおこりやすい
種分化に必要な最小の島面積は?
島の生物地理学の理論、再び
島が大きくなると食物連鎖長がのびる
島面積と種間相互作用の関係

*1:本誌は生態学会に所属している会員に送られるものですが、大学図書館等にも置いてあると思います。また、数ヶ月経つとCiNiiにて無料でダウンロードできるようになります。もちろん、希望者にはPDFを個人的に送付することも可能です

個体数の定義

 昆虫などの動物の個体数は、しばしば「abundance」として表記されます。


 生態学者は、abundance を以下の4つの方法で捉えている。


1. Global abundance:ある種の地球上の総個体数。
2. Local abundance:ある種の特定時期、区画、地域の個体数。
3. Relative abundance:群集における全種数の中に占めるある種の個体数の割合。
4. Sample abundance:記録または採集された個体数。


 生態学者は通常 sample abundance に、そして群集間の比較をする時にはしばしば relative abundance に注目している。local abundance は、直接測定することは困難なため、sample abundance から推定されることが多い。ただし、希少種の保全では local abundanceばかりでなく、global abundance が重要視されている。


文献
Magurrn AE, Henderson PA (2011) Commonness and rarity. In: Magurran AE, McGill BJ (eds.) Biological Diversity: Frontiers in Measurement and Assessment. Oxford University Press, pp.97-104.



Biological Diversity: Frontiers in Measurement and Assessment

種数の定義

 「種の豊かさ」とも訳される「species richness」は「生物種の数(種数)」のことを意味します。


 群集生態学を勉強し始めた大学4年生の頃、論文の中で頻繁に出てくる「species richness」が最初何を示しているのかわかりませんでした。種数のことを言っているらしいことはわかってきたのですが、「species number」とか「number of species」など別の言い方もあるのに何故わかりやすい用語で統一して使わないのだろうと思ったものです。論文によってはspecies richnessについては何の説明もなくただ使用されています。今のように、すぐに答えを用意してくれるGoogleさんもWikipediaさんもなかった頃でした。周囲の人に聞いてもイマイチはっきりした答えがなく、多様性指数の一つなんじゃないかというくらいの返答でした(群集生態学を真剣に研究・勉強している人がいなかっただけかもしれませんが)。


 「species richness」という単語をタイトルや要旨に含む論文は毎年のように増え続け、今では年間(2011年)3309本に達します(図1;Web of Science調べ)。



図1. 年ごとの「species richness」を含む論文数の推移


 逆に英語で論文を書く場合、種数を表現するのに species richness を使えば良いかえといえばそうとは限りません。以前、論文を投稿した時に、トラップあたりの種数に species richness を使ったところ、厳密には「species density」(種密度)にあたると査読者に指摘され、Gotelli & Colwell(2001)の総説を読むように指導されました。彼らの総説や Magurran(1998)の教科書には、「species richness」と「species density」が厳密には同じではないことが解説されています。


species density は、単位面積やトラップあたりの種数を表します。つまり、私達が野外で実際に群集データをとってサンプル間で種数を比較する場合など多くは、species density を使っているといえます。


species density を比較する時に、サンプリング計画をしっかり考えておかないと、とんでもない間違いを犯してしまうことがあります。例えば、仮想的な2つの群集を考えます。この2つの群集は種数、個体数、各種分布などは全く同じとします。この2つを比較する時、群集Aでは20個の方形区(1方形区が10平方センチで、合計200平方センチ)から合計31種を記録したのに対し、もう片方の群集Bでは10個の方形区(合計100平方センチ)から合計27種を記録したとします。この調査では、群集Aの種数が多いのですが、群集Bでは調査サンプル数が少なかったため種数が少ない可能性が高いとも考えられます。そこで、100平方センチメートルあたりの種数を考えると、群集Aが15.5種となって、群集Bの方が種数が多いことになってしまいます。本当は全く同じ種数をもつ群集であるにもかかわらず。




図2. 累積曲線とrarefaction curve(100平方cmと200平方cmにおける累積種数)


一般に、方形区を追加するに従い累積種数を記録していくとすると、1つの方形区よりも2つ、3つと調べていくに従い累積種数は増加します(図2)。しかし、その種数の増加は、直線的ではありません。最初は累積種数の増加勾配は急ですが、徐々にその増加勾配は減少し、最終的には飽和します。つまり、先の例では、もし2つの群集が全く同じものであっても、異なる種数が得られてしまうというわけです。サンプル数に対する累積曲線は、近年のコンピューターの発達とソフトの開発によって、「rarefaction curve」として容易に描かれるようになってきました(EcoSimEstimateSVegan for R, Rarefaction Calculator)。


このように、異なる群集を比較する時に、サンプル数に対してどのような累積曲線(またはrarefaction curve)をとるのかを知っておかないと、とんでもない間違いを犯してしまうことになります。


ところで、rarefaction curve には2種類あることが知られています。トラップや方形区というサンプル数をとる時を「sample-based rarefaction」、サンプル数をサンプル個体数と捉えた曲線を「individual-based rarefaction」と呼びます(図3)。この両者は似ているようでいて、若干異なります(図3)。前者は、個々の種の空間分布に強く影響されることが多いこと、後者は野外において個体のランダムサンプリングがそもそも難しいのが欠点でしょうか。アリのようにコロニー単位で分布する生物では、前者の方を使ったほうが良いでしょう。



図3. Rarefaction curve の種類


 しかし、野外で調査していると、どうしても片方の群集ではサンプル数が十分にとれないということは日常茶飯事です。また、熱帯雨林などでは、種数が多すぎて、いくらサンプル数をとっても累積種数はなかなか飽和しません。例えば、コスタリカのラ・セルバの森林では、30年にわたる継続調査にもかかわらず未だアリの種数は飽和しないそうです。


もちろん、種数を推定するというプログラムも開発されていて、それらを使って観察種数から推定された種数を用いて群集間の比較が多くなされています。最もシンプルな推定法として、例えば、観察された種数と1個体しかサンプルされたかった種数(number of singleton species)、2個体しかサンプルされなかった種数(number of doubleton species)を使って推定する方法(Chao 1)があります(参考:The Chao Estimator)。他にも、一長一短がありますが、たくさんの方法が開発されています((EcoSimEstimateSVegan for R, Rarefaction Calculator))。


 ところで、「species richness」という単語は、いつ頃から使われ始めたのでしょうか。群集生態学の草分け的存在のWilliamsPrestonMacArthurの時代から、種数自体はよく検討されてきたのですが、彼らの論文の中ではspecies richnessという単語が使われたという様子はありません。species diversityというような広意味での単語も種数と捉えられていた節さえあります。その後、さまざまな多様性指数を提案・開発されるにつれ、species diversity の中でそれぞれの指数を定義する単語が生み出されてきたようです(参考:有機農法が害虫の天敵の多様性を高め収穫量を増やす)。Web of Scienceで調べる限りでは、1972年に Kricher が Ecology 誌上で発表した論文で初めてタイトルにspecies richness という単語を使っています。この論文では、本文でも括弧付きで species richness を表記して定義しているので、当時は馴染みのなかった単語であるのは確かでしょう。その後、1990年代から2000年代にかけて多様性科学のブームとともに頻繁に使われるようになった模様です。


逆に、「species density」という言葉の方がより古くから使われているようで、1964年の論文のタイトルに見られました。species density は一定面積あたりの種数として用いられることも多く、種数ー面積関係と深く関連しています。生物地理学やマクロ生態学の分野においても species density が新たな展開をもたらしてくるかもしれません。


文献


Kricher JC (1972) Bird species diversity: the effect of species richness and equitability on the diversity index. Ecology 53:278-282.


Gotelli NJ, Colwell RK (2001) Quantifying biodiversity: procedures and pitfalls in the measurement and comparison of species richness. Ecology Letters 4:379-391.


Gotelli NJ, Colwell RK (2011) Estimating species richness. pp. 39-54 in: Biological Diversity: Frontiers In Measurement And Assessment. A.E. Magurran and B.J. McGill (eds.). Oxford University Press, Oxford. (PDF: 321KB)


Magurran AE (1988) Ecological Diversity and Its Measurement. Princeton University Press. (PDF:2.7MB)


Simpson GG (1964) Species density of North America recent mammals. Systematic Zoology 13: 57-73. (PDF: 2.4MB)


 この20年、種多様性にまつわる研究は非常に多くなされてきたため、種数や推定種数についての研究も山のようにあります。教科書もいくつかあって、どれを読んだら良いのかもわからないくらいです・・・。とりあえず、Godfray & Colwell、Magurranといった著名な人が執筆しているオムニバスの本を買ったので、少しずつ勉強しておきたいところです。



Biological Diversity: Frontiers in Measurement and Assessment

ヒメバチ類の種多様性は熱帯林でも低くない?

 緯度が低くなるほど種数が多い。温帯より熱帯の方が種多様性が高いのはさまざまな生物群で言われてきたことです。種数ー面積関係と同様、生態学では数少ない頑強な「一般則」の一つと考えられています。これまでも緯度ー種数関係についてはさまざまな視点から紹介してきました。


参考
植食性昆虫群集の熱帯林と温帯林での比較
熱帯ほど植食性昆虫の寄主植物特異性は高いか?
なぜ熱帯に植食性昆虫が多いのか?(まとめ)
熱帯ほど生物の種間関係が深い
ラポポートの法則(Rapoport's Rule):緯度の増加とともに分布域は広がる?
筆箱効果:地球の幾何学的なパターンから多様性勾配を説明できる?


 しかし例外として、昆虫類では、ハバチ類、アブラムシ類、ヒメバチ類が熱帯では温帯に比べて種多様性が低い(温帯で種数が多い)ことが知られてきました。これには、寄主植物(ハバチ、アブラムシ)や寄主昆虫(ヒメバチ)との関係性からさまざまな原因が議論されてきました。しかし、これまでにも詳しく紹介してきたように、昆虫類には多くの未記載種や未発見種が含まれています。つまり、緯度ー多様性関係を示す元データがしっかりしていなければ意味のない議論となってきます。


 ヒメバチ科は世界で最も種数の多い科と考えられていますが、最近発表された論文によると、新大陸の熱帯林での詳細な調査によって、ヒメバチの種多様性は熱帯林で必ずしも低くないことが報告されています。


 エクアドルの2ヶ所(赤道直下)の森林からフォギングによって得られたヒメバチ科のうち、Orthocentrinaeという亜科(キノコバエ上科の幼虫に寄生するグループ)に属する1078個体を調査したところ、95の形態種(多くが未記載種)に分けられた。フォギングの回数による累積曲線(rarefaction)による推定種数は、111から134種となった。これらの値は、中米(グアテマラホンジュラスニカラグア:北緯約12〜14度)の25ヶ所からマレーズトラップによって得られた同亜科の88形態種および133〜157推定種数と大きく変わらなかった。


同亜科に含まれる15属のうち4属については、エクアドルの形態種数は中米の形態種数と同程度か上回っていた。


さらに、DNAバーコーディングによって、外見では見分けづらい14の形態種は、潜在的には31種が含まれる可能性があった。


以上のことから、熱帯林でのヒメバチ類の多様性はまだわかっておらず、小型種や、形態では見分けづらい隠蔽種を含めて、まだまだ多くの種が発見されると予想される。


文献
Veijalainen A et al. (2012) Unprecedented ichneumonid parasitoid wasp diversity in tropical forests. Proceedings of the Royal Society B 279:4694-4698.


 昆虫類では未記載種というのは山のようにありますが(参考:種の記載がすべて終わるのは何年後か?)、その見解明な部分もグループによって事情は異なります。熱帯では(温帯に比べて)種数が少ないと思われていたグループがたくさん発見されたというのは興味深いです。著者らのグループは精力的に新熱帯のヒメバチ類の多様性解明に乗り出しているようで今後の展開が楽しみです。とはいえ、ヒメバチ類の場合、温帯域での種多様性が極めて高く、この事実がひっくり返ったというわけではありません。


文献
Veijalainen A et al. (2012) Subfamily composition of Ichneumonidae (Hymenoptera) from western Amazonia: Insights into diversity of tropical parasitoid wasps. Insect Conservation and Diversity online published.

パターンの抽出とメカニズムの提案

 Whittakerらの「海洋島の生物地理学における一般動態理論」は、生態学ではよくある研究の流れにのって提案されたものでした。


 Emerson & Kolm (2005) は、ネイチャー誌上で、ハワイやカナリア諸島において種数の多い島ほど単島固有種率が高いことを明らかにしました(参考:種数の多い島ほど固有種が生まれやすいか?)。その中で、単島固有種率を種分化率の頻度ととらえて、種数が多い島ほど種分化率が高くなるという仮説を提唱しました。島で種数が増加すれば競争や捕食圧が個々の種に強くかかり、一部の種が絶滅するかもしれないが一部の種では適応し生き残る。また、種数が増加すると個々の種の個体数が減少し遺伝的浮動が生じやすくなる。つまり、島での種数の増加(多様化)はさらなる多様化(種分化)を促進するかもしれないと考えたわけです。しかし、この論文には、多くの異論が寄せられました(参考:種数の多い島ほど固有種が生まれやすいか?)。Whittakerらは、Emersonらが発見したパターン(種数と単島固有種率の高い相関)についての重要性を認めながらも、彼らの考えたメカニズムに代わるモデルを提案しました。


これが、「一般動態理論」の元となった「island immaturity-speciation pulse model」です。2007年にEmersonらの論文に対するコメント論文としてEcography誌上で提案された暫定モデルです。この論文では、「海洋島の生物地理学における一般動態理論」の論文中ににも載せられている類似の図が出てきます。



図. 島の誕生から消失にかけて時間軸に沿った環境収容力、種数、移住率(immigration rate)、絶滅率(extinction rate)、種分化率(speciation rate)の変動パターン(Whittaker et al. 2007および2008より)


つまり、Emersonらが発見した種数と単島固有種率の高い相関は、海洋島の成熟度に沿った種数と種分化率の同調によると考えたわけです。特に、一般動態理論の予測の一つ「放散は最初の移住フェーズの後、島が成熟する(環境収容力が増え、地形が複雑になる)とともに卓越していく」ことによって種分化率が上昇してきたと考えてきたわけです。


 以上のように、生態学では、発見されたパターンについて、(1)そのパターンが普遍的かどうか、(2)そのパターンを説明するメカニズムが正しいか、についてよく議論が起こります。ただ、多くの生態学的現象では、全く異なるメカニズムから一見よく似たパターンが出現することが多いと思います(参考:島面積と種数の関係:メカニズムのまとめチェッカー盤分布をめぐる論争)。つまり、抽出されたパターンを説明するメカニズムは単一ではないことが多いのです。物理学など多くの自然科学と違って、パターンを説明するメカニズムが一つではないことが生態学を科学としてなんとなく「ゆるい」存在にしているような気もします。とはいえ、その「ゆるさ」こそが生態学のおもしろさを引き出しているとも思っています。


文献
Whittaker RJ et al. (2007) The island immaturity-speciation pulse model of island evolution: an alternative to the ‘‘diversity begets diversity’’model. Ecography 30: 321-327.


Whittaker RJ et al. (2008) A general dynamic theory of oceanic island biogeography. Journal of Biogeography 35: 977-994.


 島嶼生物地理学理論を提唱したマッカーサーも、彼の著書「地理生態学―種の分布にみられるパターン」の中で、繰り返し現れるパターンをつかむことの重要性を力説しています。メカニズムや理論を考えるのも楽しいですが、議論のもととなるパターンの発見も大事です。



Geographical Ecology: Patterns in the Distribution of Species
邦訳 地理生態学―種の分布にみられるパターン

海洋島の生物地理学における一般動態理論

 2009年に「島の生物地理学の理論、再び」を紹介しました。その中で、Robert J. Whittakerらが、マッカーサーらの理論は孤立した海洋島ではうまく説明できないことが多く、新たに「海洋島生物地理学における一般動態理論(general dynamic theory of oceanic island biogeography)」を提唱していました。これは、2008年に彼が編集していた専門誌 Journal of Biogeography の原著論文として出したものの(ほぼ)再録でした*1



The Theory of Island Biogeography Revisited


2009年当時は、海洋島に特殊化した理論だなあと、それほど熱心に読んでいませんでした。しかし、先日、Whittakerらの理論を検証する論文のプレプリントを読む機会があり、発表からわずか4年の間にこの分野として重要な理論となりつつあることを感じました。Whittaker自身が長年Journal of Biogeographyの編集長を務め、さらに「Island Biogeography」や「Biogeography」といった主要な教科書の執筆者という影響力もあるのでしょうか。



Island Biogeography: Ecology, Evolution, and Conservation



Journal of Biogeography


ということで、遅ればせながらエッセンスだけでも勉強しておこうと原著論文にあたってみました。


 マッカーサーたちの理論は、大陸から近い島や遠い島といった抽象的な島を想定し、島への移住率と絶滅率を考慮して平衡種数を説明したと一般には捉えられています(参考:島面積と種数の関係:メカニズムのまとめ)。しかし、孤立した島では、移入率が極端に小さく、島での種分化過程が種数増加には重要になってくることはマッカーサーらも気づいてはいました。その後の研究者の何人かも、島内での種分化過程も重要だと指摘してきました(参考:島が大きくなるほど種分化がおこりやすい種分化に必要な最小の島面積は?)。そこで、Whittakerらは、海洋島の誕生(海面上に出現)から死亡(海面下に沈降)までの期間で、環境収容力とともに種数が動的に変動すること、そして、この種数が島外からの移住、島内での絶滅だけでなく、島内の種分化によって説明できることを理論として提唱したというわけです。


 海洋島は、誕生から死亡まで、大陸島などと比べてよりクリアに定義できます。例えば、ハワイ諸島は、現在のハワイ島(Big Island)が最も新しい島で、北西に向かうほど古い島であることがわかっています*2(参考:ハワイ諸島の形成史)。現在のハワイ島は、ハワイ諸島最大の島で、加えて4000mを超える高い山を有しますが、北西に向かうほど、島面積は小さく、標高も低くなります(図1)。そして、北西ハワイ諸島(カウアイ島より北西の小さな標高の低い島群)のように、島が削られ風化し沈降して最終的には海面下へと姿を消します(図1)。



図1. 島の誕生から消失までの地形の変化(Whittaker et al. 2008より


Whittakerらは、このような島の歴史の中で、生物が生息可能な潜在的な環境収容力が変動し、これにあわせて種数の変動を予測しました。そして、マッカーサーらと似た図を用いて、移住率、絶滅率に加えて種分化率が時間軸にそって変動することによって種数を説明したわけです(図2)。



図2. 島の誕生から消失にかけて時間軸に沿った環境収容力、種数、移住率(immigration rate)、絶滅率(extinction rate)、種分化率(speciation rate)の変動パターン(Whittaker et al. 2008より


また、島の隔離度(どれだけ供給源の大陸から離れているかの度合い)によって、移住率が異なるため、これに影響を受けて種分化率も変動することを指摘しています。つまり、移住率が高い場合(I3の曲線)、種分化率(S3の曲線)は低い範囲をとることを示しています(図3)。



図3. 移住率と種分化率の関係(Whittaker et al. 2008より


 この一般動態理論が成り立つとすると、導かれる予測パターンがあります。その代表的なものとして、「種数および単島固有種数(single island endemic)は、島が古くなるとともに上昇するが、その後減少する」ということです。このような関係は「humped relationship」と呼ばれています。適切な日本語を思いつかないのですが、「一山型の曲線」を描くと表現しておきましょう(図4)。



図4. 島の面積と年齢と種数の関係(Whittaker et al. 2008より


一般動態理論の主な予測


1. 種数および単島固有種数は、島の年齢に対して一山型の関係をもち、ある時間断面での諸島全体で見ると島面積に対して正の直線関係をもつ(図4)。


2. 種数および単島固有種数は、最大面積で最高標高で成熟した島でより高い(図2)。


3. 移住率と種分化率は、島の隔離度に対して変動する(図3)。


4. 放散(lineage radiation)は最初の移住フェーズの後、島が成熟する(環境収容力が増え、地形が複雑になる)とともに卓越していく。


5. 山地性の種類は島面積の減少とともに(生息地の減少により)徐々に絶滅していく。


6. 単島固有種の割合は、島の年齢に対して一山型の関係をもつ。これは、面積や環境収容力が減少しつつある(古くなりつつある)島では予測8によって単島固有種が失われるためである。


7. 属あたりの単島固有種数は新しい島で多く、古い島では減少する。


8. 島が古くなるほど、単島固有種の一部はより新しい島に移住する(参考:ハワイ諸島での種分化:‘Progression Rule’)。このため、単島固有ではなくなる。


9. 放散後に残った遺存固有が古い島に見られる。


10. 最高標高に達した段階の島で適応放散(adaptive radiation)が最も卓越する。相対的にやや古くなった島では、島内の異質性が高まり非適応放散(non-adaptive radiation)がより重要になりうる(参考:適応放散と非適応放散)。


 Whittakerらはこれらの予測すべてを検証することは不可能としつつも、島の年齢に対する多様性(種数、単島固有種数など)の一山型の関係についての予測(図4:1および6の一部)は検証できると考えました。そこで、カナリア諸島(7島、節足動物、植物、陸産貝類)、ハワイ諸島(10島、節足動物、甲虫類、開花植物、陸産貝類)、ガラパゴス諸島(13島、昆虫類、甲虫類、植物)、マルケサス諸島(10島、植物)、アゾレス諸島(9島、植物、陸産貝類)のチェックリスト(記録)を使ってその予測を検証しました。検証には、図4の予測となる以下の式の当てはめを行いました。


式1)Diversity = a + b × (Time) + c × (Time2) + d × (log Area) ,


Diversity(種数、単島固有種数、在来種に占める単島固有種数の割合、属に占める単島固有種の割合)、Timeは島の年齢(Time2は島の年齢の2乗)、Areaは島面積、a〜dは定数です。これらの当てはまりを、その他、従来の島面積ー種数関係のモデルと比較しました。結果として、式1)が他のモデルに比べて最も果てはまりが多く、島年齢に対して一山型の関係が見出されました(つまり予測1は検証された)。


文献
Whittaker RJ et al. (2008) A general dynamic theory of oceanic island biogeography. Journal of Biogeography 35: 977-994.


 「海洋島の生物地理学における一般動態理論」の骨子をまとめてみましたが、この理論、日本近辺では実データをもってこれを検証するのは難しいというのが実感です。というのも、日本で、種分化が起こるほど隔離された海洋島というのは小笠原諸島くらいですから(単島固有種も少ない)。しかも海洋島の中でも、かなり古いので、一般動態理論でいえば、かなり種数が減少した古い島にあたるでしょう。火山列島は、南硫黄島近辺から北硫黄にかけて歴史的に追うことは可能だけれど、いかんせん種分化が起こっているほどに古い島はありません。ということで、ハワイ諸島カナリア諸島などのようにかなり新しい島から古い島までが集まった場所はありません。


とはいえ、島の種数を考える上で、島面積だけではなく島の年齢を考慮するというのは、他の生態学のパターンを説明する参考になる概念になってくると思っています。

*1:2007年の「島嶼生物地理学の理論」40周年の記念シンポジウムではじめて提唱したのかもしれませんが。

*2:大陸プレートの移動とともに島は随時北西方向に移動しています。

論文のカラー図作成

 論文の中で、研究に使った試料や動植物をカラー写真を使って示したい時がしばしばあります。また、複雑な図をわかりやすくするために凡例や線を色分けしたい場合もあるでしょう。つい数年前まではカラーチャージを気にして、なかなか思い切ってカラーにできないものでした。カラーチャージというのは、図をカラーにするとかかる印刷価格で、ページチャージ(ページ単位、もしくは◯ページ以上超過する時にかかる価格)や別刷代*1とは別料金になります。


だいたい2,3ページにカラー図を配置すると数万円から十数万円はかかったものです。もちろん、現在でもカラー印刷するとそれくらいかかるようですが、最近の研究界は別刷りの代わりにもっぱらPDFをやりとりする時代です。そもそも冊子体をもたないオンラインジャーナルさえも増えてきました(もちろんカラーチャージはかかりません)。つまり、思う存分カラー図を使える時代が到来したということです。大手出版社(Elsevier、Wiley、Springer)でも、冊子での印刷は白黒(グレースケール)にするけれど、PDFだけはチャージなし(無料で)でカラーにすることも可能です。雑誌の投稿規定にはカラーにすると1ページ(または図)単位〇〇ドルかかると書いてあっても、PDF版のカラーは無料だったりすることが多いのです。


 さて、カラー使い放題とはいっても、冊子体では白黒になってしまいますし、PDFを(白黒)印刷して読まざるをえない人もまだ多いでしょうから、多少カラー図にも工夫がほしいところです。色分けした場合でも、グレースケール(白黒)で印刷された時にも区別できるような記号分けや線(点線など)分けするのも手段の一つでしょう。カラー写真についても、Photoshop等でグレースケールでチェックして図がつぶれないように明暗を調整しておきたいところです。



最近書いた論文の図(3色に分けるとともに、重複する線は種類も変えてみました;Sugiura et al. 2013より)

*1:別刷りとは、印刷された雑誌の中から個別の論文だけを抜き出して冊子にしたもの。抜刷りとも言う。