海岸植物:外来種それとも在来種?

 Thanksgivingと呼ばれる感謝祭が終わりました。研究室の先生のホームパーティーに呼んでいただいて楽しく過ごせました。


 先日、オアフ島の西岸を訪れたとき、見慣れた海岸植物が多数観察できました。日本の南部の海岸には普通に見られるグンバイヒルガオクサトベラ、モンパノキ、サキシマハマボウなどです。モンパノキの花には、セイヨウミツバチが盛んに訪れていました。クサトベラの花(写真)は、小笠原と同様、昆虫には大人気でした。セイヨウミツバチの他、ソノーラクマバチ、コハナバチの一種、セイボウの一種などが訪れていました。しかし、いずれの訪花昆虫も外来種であるのがハワイらしい。オアフ島では多くの固有生物は高地にしか残存していないというので、固有のメンハナバチ類も同様なのかもしれません。


 ところで、ハワイでは固有種がきわめて多いことは先に紹介しました。一方で、他の地域(太平洋の島々)にも分布し、ハワイにも元々分布していた在来種というのもいます。ハワイやガラパゴス、小笠原のような隔離された海洋島では、二タイプの在来種(固有種と固有種でない在来種)がいるわけです。しかし、固有種はともかく、元々ハワイに分布していた在来種というのはどうやって外来種と区別しているのでしょうか。

 ハワイは、西洋人がやってくるずっと以前からポリネシア人が入植していたため、その起源を探るのは非常に難しいのです。また、海岸植物の多くは、種子や果実が海水に浮く構造をもっていて、海流によって分布を広げる特徴があります。従って、遠く離れたハワイのような場所でも海流に乗ってたどり着いた可能性はあるわけです。例えば、太平洋に広く分布するサキシマハマボウやオオハマボウは、種子は海流に乗って運ばれます。ハワイでは西洋人の入植前から生育しており、古くはポリネシア人によって持ち込まれたのではないかと推定されていたり、その起源には「?」がついています。グンバイヒルガオクサトベラは在来種となっていますが、モンパノキはハワイでは外来種となっています。このように、海岸は生物の入植の最前線であり、その起源の推定は困難を極めます。

 そんな中、ガラパゴスで、在来種が疑われていたり、外来種であると考えられていた植物が実は在来種だった、という研究が発表されました。


 ガラパゴス諸島の湿地帯から採取したコアから植物化石(花粉および種子)を調べたところ、少なくとも6種の外来か在来種が疑われていた植物種が、明らかな在来種であることがわかった。ガラパゴス諸島は、約500年前に西洋人による入植があったと考えられるが、これらの植物では、数千年前、古くは8千年前の層から花粉または種子が発見されたのだ。ハイビスカスの一種は、侵略的な性質をもち、島の生態系を改変する脅威と考えられてきたし、他の種も、汎熱帯の島々で外来種として考えられてきたものだ。


今回ガラパゴスで在来種とわかった植物


カッコウアザミ Ageratum conyzoides
ナガバハリフタバ Borreria laevis
キク科の一種 Brickellia diffusa
ネバリミソハギ Cuphea carthagenensis
ハイビスカスの一種 Hibiscus diversifolius
キンポウゲ属の一種 Ranunculus flagelliformis


文献
Van Leeuwen JFN, Froyd CA, van der Knaap WO, Coffey EE, Tye A, Willis KJ (2008) Fossil pollen as a guide to conservation in the Galapagos. Science 322: 1206.


 上記のうち2種はハワイや小笠原に分布し、外来種として考えられていたり、起源がわかっていないものです。

 過去の気候や植生を推定するために、花粉や植物化石を調べることは、世界中で行われてきた標準的な手法でしょう。しかし、ガラパゴスなど、外来植物の脅威から島の生態系を保全しなければいけない場所では、在来種であるか、外来種であるかの区別をつけることは、保全上きわめて重要なわけです。

 植物以外にも小笠原の陸貝(カタツムリ)で、半化石を調べることで、これまで外来種であると思われていたのが在来種であることがわかった例が報告されています。


 小笠原は約200年前に(人の)入植がはじまったと考えられているが、約700年前の堆積層から出土した陸貝の半化石を調査したところ、多くの固有種に混じり、これまで外来種と考えられていたヒメコハクガイHawaiia minusculaが見つかった。
 また、これまで知られていない固有種(オガサワラヤマキサゴの一種)の化石も発見され、入植後ただちに絶滅してしまった固有種がいたことを示唆している。


文献
 Chiba S, Sasaki T, Suzuki H, Horikoshi (2008) Subfossil land snail fauna (Mollusca) of central Chichijima, Ogasawara Islands, with description of a new species. Pacific Science 62: 137-145.

 ヒメコハクガイはハワイでも外来種として知られています。

 海洋島における化石や半化石の調査は、絶滅種と現存種の両方について多くの情報を提供してくれるわけです。