Thanksgivingが終わり、米国の次の最大行事であるクリスマスに向けて、スパーなどでクリスマスツリーが売られています。ハワイなのにクリスマスツリー？と思ってしまいますが、もちろん、アメリカ本土から送られてきたわけです。クリスマスツリーなんて、そのあたりに生えている外来種（トクサバモクマオウとか）を切って使うとか、プラスチックツリーでいいのに、と思ってしまいがちです。しかし、ハワイは本土出身の人も多いので生まれ育った文化は大切にしたいのでしょう。皆、車の荷台にくくりつけて持ち帰っています。先週、植物検疫の人（？）がクリスマスツリーと一緒に持ち込まれたナメクジの同定依頼に研究室のRさんのところに見えていました。RさんとKさんが同定に取り組んでいました。結果、北米に生息する種類で、ハワイでは初記録となるとか。もちろん北米からハワイにクリスマスツリーと一緒に持ち込まれた外来種です。
これまで紹介していませんでしたが、今滞在している研究室はカタツムリとナメクジを専門にしている部屋なのです。研究室では、進化や生態など基礎的な研究以外にも、絶滅危惧種の保全や外来種の研究などにも勢力的に取り組んでいます。ハワイは、これまで述べてきたように特殊な環境で進化してきた固有種が見られるわけですが、同時に人間による影響も大きく、基礎と応用の両方を並行して調査していかなければならいない、という意識が強いようです。もちろん、外来種は農作物の害虫になったり経済に与える影響も大きいので、研究の需要は高く、研究費を獲得しやすいという世知辛い事情もあるでしょう。米国は研究費がなければ文字通り生きていけない世界ですからね。
さて、今週になって、朝からRさんに盛んに電話がかかってきていました。なんでも、オレゴンの新聞社からだそうです。クリスマスツリーはオレゴンから運ばれてきたようで、先日のナメクジの話がはやくも新聞に記事としてとりあげられたようです。テレビの電話取材も受けていました。オレゴンからのクリスマスツリーだとすると樹種はやっぱりモミでしょうか（Abies procera）。Rさんに事情を伺ったら、最近発表した論文のプレスリリースについての取材の際、ついでにクリスマスツリーの話もしたそうです。その結果、週末に二度にわたって掲載されたようで、Rさんも少しご機嫌でした。
クリスマスツリーの販売など、園芸産業と外来種との関連性は深いのです。その点に注目した論文の方を紹介しましょう。
ハワイ諸島の主要6島（北からカウアイ島、オアフ島、モロカイ島、ラナイ島、マウイ島、ハワイ島）において、合計40の園芸植物などの育苗場（苗畑）を調査したところ、31種のカタツムリとナメクジが記録され、そのほとんどが外来種であった（2、3種は在来種？）。このうち、5種はこれまでハワイから記録されていなかった新たな外来種であった。種構成や群集構造は、島間や苗畑のサイズによって異なっていた。また、主要な港のあるオアフ島において特定の種が多く、他の島への拡散の中継地点となっている可能性がある。いくつかの外来種は、栽培植物の害虫となっていた。このように、ハワイ諸島において、園芸産業は、明らかに外来種のカタツムリやナメクジを拡散する担い手となってしまっている。これらの外来種と一緒に生産物を輸出してしまうと、積み荷自体が拒否されてしまう。新たな地域に運ばれ定着してしまうと、農業的にも経済的にもまた環境的に大きな問題を引き起こしてしまう。園芸植物の苗畑や検疫において、より配慮が求められる。文献
Cowie RH, Hayes KA, Tran CT, Meyer WM III (2008) The horticultural industry as a vector of alien snails and slugs: widespread invasions in Hawaii. International Journal of Pest Management 54: 267-276.
＊写真：アシヒダナメクジの一種Veronicella cubensis（体長7,8cm）は、滞在していた大学の宿舎内の園芸植物から出現したもの。論文中にも苗畑から見つかっている外来種で、種小名に出ているようにキューバ原産だとか。隣の机のKさんに教えてもらった。ちなみに普通のナメクジは陸産の他のカタツムリと大きくは同じグループですが、アシダナメクジは、海産のイソアワモチなどに近く、殻を持たないまま上陸したタイプとのこと。
さて、そんな忙しいRさんに加え、いつもサポートしてくれるBさんの二人が、アパートの契約に付き添ってくれました。なんて優しい。同時に契約したての部屋にそのまま引っ越す必要があったので、大学内の宿舎から車で運んでくれました（さらに感謝）。ハワイに到着して一ヶ月、ようやく新しい生活がはじまりました。
