イグアナの糞を食べるガ

 最近知り合った、近所の研究室のPさんは、スイスからやってきたポスドクで、ガの分類や分子系統を専門とされているらしい。大学院では、ガラパゴスに固有のガを材料に研究されていたとか。


 ガラパゴスといえば、ガラパゴスゾウガメやイグアナ(ウミイグアナとリクイグアナ)、そしてダーウィンフィンチが著名だ。これらガラパゴスのスター選手たちは、祖先種がガラパゴス諸島にたどり着き、諸島内で複数の種(または亜種)に分化したと考えられている。Galagete(キバガ上科Autostichidae科)は、ガラパゴスに固有の属で、12種が知られている。分子系統解析により、やはりこのガのグループも一種の祖先種から諸島内で種分化したことが確かめられた。さて、興味深いのはその生態で、多くの種ではよくわかっていないが、G. protozonaという種は、なんとガラパゴスリクイグアナの糞から見つかった。イグアナの糞には小さい穴があいていることが多いが、これは、G. protozonaの幼虫があけたものだ。卵は、リクイグアナの乾燥した糞の下に産みつけられていた。リクイグアナは一般に植食性だが、動物も食べる。糞の中には、多数の種子や植物断片、他に大型バッタ(固有種)の体の一部も含まれていた。おそらく、G. protozonaの幼虫は、糞に含まれる植物や動物遺体を食べているのだろう。動植物遺体食は、所属する科(Autostichidae)の他の種でも見られる。
 Galageteの他の種では、スカレシア(ガラパゴスで有名なキク科木本植物)の枯葉や枝から羽化した記録がある。また、G. gnathodoxaという種は、これまた有名なガラパゴスゾウガメの糞から一個体羽化した記録がある。


文献
Schmitz P, Landry B (2007) Immature stages of Galagete protozona (Lepidoptera: Gelechioidea: Autostichidae) from the Galapagos Islands: description and notes on biology. Canadian Entomologist 139: 201-208.


Schmitz P, Cibois A, Landry B (2007) Molecular phylogeny and dating of an insular endemic moth radiation inferred from mitochondrial and nuclear genes: The genus Galagete (Lepidoptera: Autostichidae) of the Galapagos Islands. Molecular Phylogenetics and Evolution 45: 180-192


 大陸などでは植食性の大型哺乳類の糞を食べる虫がいるのは周知のことでしょう。ガラパゴスでは、その大型草食獣のニッチを大型爬虫類(ゾウガメ、イグアナ)が占めていて、その糞を食べる固有の虫がいるところにおもしろさがあります。

 Pさんは、ガラパゴスで研究をしていたのでスペイン語も話せるとか。スイスの主要3言語(独仏伊)と英語をあわせて5カ国語も話せるらしい。そんなPさんが何故ハワイでポスドクをやっているのでしょうか。ハワイにもおもしろい生態をもつガの仲間がいるのです。これについては、また機会があれば紹介します。


 ちなみにガの糞食coprophagyというのは、ガラパゴスだけで見られるわけではありません。


パナマのメイガの一種Cryptoses choloepiは、成虫はミツユビナマケモノの体表にすんでいて、幼虫はその糞を食べる。。


文献
Waage JK, Montgomery GG (1976) Cryptoses choloepi: a coprophagous moth that lives on a sloth. Science 193: 157-158.