ダーウィンのマネシツグミ

 英国軍艦ビーグル号でガラパゴス諸島を訪れたダーウィン(Chales Darwin)は、生物進化を確認するに至る重要な観察を行ったと言われています。ダーウィンフィンチガラパゴスフィンチ)がその重要な観察対象としばしば思われがちですが、実はダーウィンは現地ではそれほどこの鳥に注目していなかったそうです。ダーウィンフィンチよりも、大陸に近縁種がいるのが明らかだったマネシツグミ類(Mimus)は「進化」を考えるのに良いヒントになったと言われています。



マネシツグミの一種(Mimus trifasciatus
Wikipediaより)


 マネシツグミ類の一種(Mimus trifasciatus)はガラパゴス諸島のフロレアナ島(Floreana)に見られ、ビーグル号艦長フィッツロイ(Robert Fitzroy)とダーウィンによって1835年に採集されています。ところがこの50年後、フロレアナ島では(おそらく)外来種のネズミによって本種が絶滅してしまいました。現在では、フロレアナ島の周囲にある小さな島であるチャンピオン島(Champion)に20-53羽、そしてガードナー島(Gardner)に200-500羽が残るのみだそうです。



ガラパゴス諸島フロレアナ島(Googleより)


これらの小さな残存個体群を保全しつつ、一部の個体をフロレアナ島に再導入して第三の個体群をつくって保全しようという計画があります。しかし、これらの残存個体群はかつてのフロレアナ島と同じ個体群なのか、または別々に進化してきた個体群なのか、再導入する前に解決すべき問題があります。


そこで研究者らは、これら残存個体群や、かつてフロレアナ島でダーウィンらによって採集された標本からDNAを抽出して遺伝構造を比較しました。


 2006年から2008年にかけてチャンピオン島とガードナー島の個体群から血液サンプルを、またカリフォルニア科学アカデミーが1905-1906年にかけてチャンピオン島とガードナー島から採集した標本からサンプルを、さらにダーウィンらが1935年にフロレアナ島から採集した標本からのサンプルを使いDNAを抽出し解析を行った。


 マイクロサテライト解析によって、チャンピオン島とガードナー島の個体群の間には遺伝的な違いがあり、それぞれに固有の遺伝的な部位もみられた。しかし、いずれの島の個体群もかつてのフロレアナ島個体群と遺伝的に共有している部分も大きく、進化的にみて長期にわたる分化は示していなかった。チャンピオン島では1906年と2008年の間でも遺伝的多様性が大きく減少していたが、ガードナー島では大きな減少はみられなかった。


ガードナー島ではチャンピオン島よりも先に遺伝的分化が起こっていた可能性があった。また、いくつかの解析から、800年以上前から分化が起こった可能性は低かった(つまりこの800年以内での分化)。これらのことから、これら3島の遺伝的分化は古くはなく、かつてはある程度の遺伝的交流があったものと考えられる。


以上から、両方の個体群からフロレアナ島への再導入を行うべきであろう。


文献
Hoeck P et al. (2009). Saving Darwin’s muse: evolutionary genetics for the recovery of the Floreana mockingbird Biology Letters DOI: 10.1098/rsbl.2009.0778


 100年以上も前の標本からDNAを抽出して解析するのがすでに一般的になりつつあります(参考:「キューバのハシジロキツツキは別種で絶滅?」)。しかもダーウィンの採集品から分析したのがポイントとなっている論文でしょう。


参考ページ
Conservation Magazine, Journal Watch Online
Thanks, Charles
「ありがとう、チャールズ」