外来種スクミリンゴガイの起源

 Defense後のパーティーがRさん宅であったので参加しました。Rさんもほっとした感じで、supervisorも(奥さんも)なかなか大変だと感じました。


 さて、今回のDefenseの内容は、日本でも田んぼの害虫としておなじみのスクミリンゴガイジャンボタニシともいう淡水性で大型の巻き貝、英語ではapple snailと呼ぶ)を含むAmpullariidaeの進化、系統地理学についてでした。



スクミリンゴガイの一種


 Ampullaridae(リンゴガイ科)は、ゴンドワナ(過去の超大陸)起源で、大陸が南米とアフリカ、アジアへと別れた後に、それぞれで進化してきたそうで、まさに生物地理の教科書的な材料です。本科は、海産の科と、陸産の科とそれぞれに近い系統的位置にあるため、巻き貝がいかに陸上に進出したかを探る良い材料でもあるそうです。また、害虫スクミリンゴガイの卵塊は、美しいピンク色で知られていますが、原産地ではピンク以外に、白、水色など実にさまざまな色が見られます。卵の色の適応的意義は、水上(草の上など)に産卵されるようになって、紫外線反射に関連しているとか、捕食者に対する警告色であるとか、興味深いテーマが内包されています。さらに、原産地では、大きなリンゴガイの成貝を専門に食べる捕食者もいて、その中でも、Snail Kite はリンゴガイの個体群に強く依存しているらしく、捕食者ー被食者間の進化の材料としても興味深いところです。



Snail Kite (Rostrhamus sociabilis) Wikipediaより転載


 主題であったAmpullariidaeの世界レベルでの系統地理の論文については、まだ印刷中ということなので、発表のうちのごく一部であった害虫スクミリンゴガイの論文の方を紹介しておきます。


 東南アジアや南アジアの田んぼの大害虫であるスクミリンゴガイPomacea spp.)の起源は南米であることはよく知られている。しかし、原産地である南米には複数種がいて、アジア産の種類がどれにあたるのかは、少なからぬ混乱があった。そこで、アジア164地点、原産地である南アメリカ大陸57地点からサンプリングを行い、その分子系統解析を行った。結果、アジアでは4種類(Pomacea canaliculata, P. insularum, P. scalaris, P. diffusa)が帰化していることがわかった。さらに、アジアに最も広範囲に分布するP. canaliculataP. insularumは、おそらく複数回アジアに持ち込まれて帰化した可能性がある。P. canaliculataは、少なくとも2度にわたって、それぞれアルゼンチンの別々の場所から持ち込まれた可能性が高い。P. insularumはブラジルとアルゼンチンでそれぞれから別々に持ち込まれたようだ。このような複数回の導入によって、これら2種がアジアで広範囲にわたって分布するようになったのかもしれない。一方、P. scalarisはアルゼンチンから、P. diffusaはブラジルから、アクアリウム関連の輸入によって持ち込まれたようだ。これら4種は、生理、生態、原産地の分布などが異なるため、その侵入パターンを理解したり侵入地での管理手法を発展させるには、正確な同定が必須である。


文献
Hayes KA, Joshi RC, Thiengo SC, Cowie RH (2008) Out of South America: multiple origins of non-native apple snail in Asia. Diversity and Distributions 14: 701-712.


 外来の害虫を防除する時には、侵入地と原産地での生理や生態を調べることが基本にあります。ところが、スクミリンゴガイは、どこの国から持ち込まれたのかはよくわかっていませんでした。日本でも、P. insularumの学名があてられていましたが、その後形態からP. canaliculataと再同定され、上記の論文でもP. canaliculataであることが再確認されています。ただ、日本でも原産地アルゼンチンの少なくとも2カ所を起源とする系統が検出されており、その導入の歴史は複雑です。

 スクミリンゴガイはもともと食用で、近年ではアクアリウム用の水草と一緒に、また水槽で飼うペットとしても頻繁に持ち込まれているようです。水田のイネなどを食べる害虫としてだけでなく、在来の巻き貝を食べたり(捕食者でもある)、広東住血線虫を体内に宿していることもあるので(生で食べると危険)、経済的にも、生態的にも、健康被害の面でも、深刻な外来種といえるでしょう。