島で植物の種数は二倍になる(2)将来予測

 「島では外来植物の帰化種数の増加によって、元々の種数の二倍に達している」という研究がありました。帰化植物の種数が増加しているにも関わらず、在来植物種の絶滅はそれほど起こっていませんでした。島では植物の合計種数は飽和せず、今後も、種数は増え続けるのでしょうか。また、帰化種が増え続けても在来種の絶滅は起こらないでしょうか。そういった疑問がわいてくるのは当然でしょう。その点をさらに予測した研究が最近発表されました。

 島における外来植物の帰化種数は、島における人口(79%;この要因によって説明できる割合)や面積(71%)、最高標高(49%)、欧州人の定住からの時間(31%)などの要因よりも、現存在来種数(96%)によって最もよく説明されていた。島での外来植物の帰化種数と現存在来種数は1:1の関係にあった。この原因は今のところよくわかっていないが、その強力な説明力は、島における将来の植物種数の変遷パターンを予測するのに役立つだろう。


 そこで、過去200年ほどの外来植物の帰化種数が記録されているいくつかの海洋島において調査したところ、年をおうごとに直線的な増加を示していた。さらに、数十年単位で現存在来種数に対する帰化種数の比を調査したところ、1860年ではわずか0.07であったのが、1880年に0.15、1920年に0.44、1960年に0.70と徐々に増加し、2000年には1.07に達したということがわかった。つまり、現存在来種数=帰化種数という関係は、近年になって達成されたということである。この200年における現存在来種数に対する帰化種数の比の増加は、今後も島で外来植物の帰化種数は増え続けることを示唆している。


 しかし、その将来を予測するのにあたって、3つのモデルによって結果が異なる。
3つのモデル
(1)植物種数の合計に飽和がない場合
(2)飽和はあるが、新しい外来種の定着が、すでに定着している種によって妨げられる場合
(3)飽和はあるが、外来種の新たな定着によって、すでに定着している種が絶滅する場合


モデルごとの予測
(1)の場合:帰化種はますます増加し、在来種の絶滅はほとんど起こらない。
(2)の場合:帰化種の増加は頭打ちになり、在来種の絶滅はほとんど起こらない。
(3)の場合:帰化種はますます増加し、在来種の絶滅が頻繁に起こる。


 しかし、現存するデータでは、上記の3つを区別することができない。さらなる研究(散布体圧、絶滅への時間差、外来種導入後の在来種のアバンダンスの変遷、生息地の消失)が絶滅予測への助けとなるだろう。


文献
Sax DF, Gaines SD (2008) Species invasions and extinction: the future of native biodiversity on islands. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 105: 11490-11497.



 植物の絶滅数が少ないといっても、島では大陸に比べてかなりの種数が絶滅しています。しかも、ハワイ諸島では、陸鳥64種が絶滅にしているのに対し、71種もの在来植物が絶滅しています(ただし在来種の総数が植物で極めて多い)。在来植物の絶滅の原因は、外来植物だけでなく、外来動物、生息地の消失などいろいろな要因が絡み合っていることが多いものです。また、外来種といっても、生態系に強い影響を与える侵略的な種から、ほとんど影響を与えていないような種まで、さまざまです。侵略的な外来植物は、他の生物にも負の影響を与える可能性があります。紹介した研究では、島で、植物の帰化種数増加が、在来植物の絶滅種数に影響を与えるかどうかだけに主眼におかれていて、他の影響についてはほとんど触れられていません。したがって、「植物は外来種が増えても絶滅しない」といったような一般的な解釈には慎重さが必要でしょう。

 いずれにせよ、島では多くの外来種帰化していて、今後、何らかの対策をとらない限り、これからもどんどん増える可能性が高いでしょう。


用語解説
 外来種帰化種:ここでは、栽培や植栽のために持ち込まれた植物全体を外来植物として、その中で、自然に繁殖し定着した種を帰化種としています。つまり、帰化していない栽培植物などを含めると、潜在的にはより多くの外来種がすでに島には生育しているということになります。


関連ページ

島で植物の種数は二倍になる(1)鳥との比較
http://d.hatena.ne.jp/naturalist2008/20081230/1230588016