外来種が定着する/しないメカニズム:二つの仮説

 なぜ外来種が定着に成功するのか、またしないのか。


 以前に、外来植物の送粉や種子散布を手伝う外来種や在来種がいることにはふれました。しかし、実際、植物が繁殖に成功したとしても、その実生が侵入地で生き残ることができるかどうかは別の要因がからんできます。また、すべての外来植物が定着に成功するわけではありません。持ち込まれた植物種の中で帰化しているのは一部の種です。


 今回は、外来種の定着にかかわる二つの仮説を紹介します。


1. Enemy release hypothesis(天敵解放仮説)


 しばしば外来種の昆虫や植物が大発生したり繁茂したりすることが知られています。この仮説は、外来種の個体群成長を抑える天敵(捕食者、寄生者、植食者など)がいないために大発生が起こったのではないか、という考え方です。このメカニズムについては古くから考えられており、実際、「古典的生物防除」として、外来種の原産地から天敵を導入して外来種の発生を抑えるという手法がとられてきました。また、侵入地では、天敵に対する防御というコストから解放されるため、外来種にとって他の繁殖や成長にコストをより掛けられるという利点も生じます。



2. Biotic resistance hypothesis(生物的抵抗仮説)


 一方で、外来種が天然の自然植生には入り込んでいない例を多く知っているはずです。ごく一部の外来種をのぞけば、多くの外来種は、人間による攪乱(かくらん)の大きい場所でのみ定着に成功しています。これは、人為攪乱の少ない自然生態系では、外来種に対するなんらかの抵抗性があるという考え方です。実際、在来の植食性動物による採食が外来植物の繁茂を抑えていたり、在来の捕食性昆虫類や鳥類が外来昆虫を捕食することで定着を防いでいることが知られています。



参考文献


Maron JL, Vila M (2001) When do herbivores affect plant invasion? Evidence for the natural enemies and biotic resistance hypotheses. Oikos 95: 361-373.


Keane RM, Crawley MJ (2002) Exotic plant invasions and the enemy release hypothesis. Trends in Ecology and Evolution 17:164-170.


Torchin ME, Mitchell CF (2004) Parasites, pathogens, and invasions by plants and animals. Frontiers in Ecology and Environment 2: 183-190.


Parker JD, Burkepile DE, Hay ME (2006) Opposing effects of native and exotic herbivores on plant invasions. Science 311:1459-1461.

 大発生する外来種が原産地ではしばしば低密度であることをみて、天敵の重要性を指摘したのがやはりダーウィンだそうです(1859年)*1。そして、外来種の多くが自然生態系には侵入しにくいことをみて「生物的抵抗性仮説」の考え方を示したのが、著名な生態学者チャールズ・エルトン(Charles S. Elton)というわけです(1958年)。エルトンはさらに、外来種が自然生態系に侵入する場合の多くは、生態系が単純な(つまり生態系を構成する種数が少ない)海洋島であることを見いだし、「単純な生態系は不安定(つまり複雑な生態系は安定しやすい)」という考え方*2を示したようです。


 それにしても、Eltonの本「The Ecology of Invasions by Animals and Plants(1958)」は、基本的には現在でも通用する多くの考え方を含んでいます。外来種が近年問題であることが指摘されていますが、それはとっくの昔にエルトンさんによって熟考されていたということがよくわかります。ちなみに、この本の翻訳も古くに出ていて、(もちろん絶版ですが古書で)購入可能です。外来種研究だけでなく島の生物学、群集生態学に取り組んでいる人にとっては古典といえる本でしょう。


侵略の生態学



*1 ダーウィンが生物学で有名すぎること、そして多くの著作を残していること、この2点があれば、多くの仮説やアイデアダーウィンに帰するという考え方もできます。他にも仮説を示している人がいても、その著作や文献を発掘するのは極めて困難です。それに、引用する時にダーウィンを使うのはちょっとした話題性と権威付けができるということも注目すべき点でしょう。


*2 エルトンは他の事例など多くの資料をもとに「単純な生態系は不安定である(複雑な生態系は安定)」という考え方を示したようです。ただし、この考え方は現在、理論的には(教科書的に)否定されているものです。しかし普遍性はないかもしれませんが、安定、不安定性の定義、その他の条件を考慮すれば、ありえない考え方ではないと私は思ってます。