海藻を食べるヘビ:島から海へ

 ハワイには、危険な陸上動物はほとんどいません(ヒトくらい?)。熱帯地方といえば想像してしまう猛毒のヘビもいません。小型種のブラーミニメクラヘビという土壌動物(アリとかシロアリ)を食べるミミズそっくりの外来種がいるだけです。琉球や小笠原にも同一種がいて、単為生殖すること、飢餓耐性などが強いことによって、農業用資材とともに容易に運ばれるみたいです。

 ハワイや小笠原のような海洋島は、ヘビが泳いで侵入するには遠すぎるのでしょう。しかしハワイにはウミヘビはいます。ウミヘビはもともと陸上のヘビが二次的に海に進出したものと考えられています。普通のヘビからウミヘビへの進化はどのようにおこったのか。「そのヒントは島にあり?」という興味深い仮説があります。


 ある種の島個体群は、その特異な環境から独特の生活史を持つことがある。フロリダヌマムシAgkistrodon piscivorus conantiの島個体群では、おもしろい食性をもつことがわかった。


 通常、ヘビといえば、捕食者である。フロリダヌマムシは、通常は陸域の湿地帯などに生息する捕食者である(死体も食べる)。フロリダのとある島の個体群では、水鳥の巣から落ちてきた海魚の死体や、海岸に打ち上げられた海魚の死体、時には海藻まで食べるスカベンジャーである。このように、フロリダヌマムシの島個体群では、海という陸域とは異なる生態系からの生産物に依存している。また、稀ながらも海上を泳ぐのが目撃されている。


 脊椎動物の一部で二次的に海に進出したグループが知られている。爬虫類の中でもヘビは5つもの系統で海水生活が進化したと考えられている。海へ進出した初期の生態学的な要因を調べる上で、フロリダヌマムシの島個体群の研究は適している。つまり、島では従来と異なった非生物的、生物的選択圧にさらされるため、(1)海産物を利用するようになる(2)海にも入るようになる、という一連のプロセスは、海での生活の第一歩かもしれない。


文献
Lillywhite BH, Sheehy CM III, Zaidan F III (2008) Pitviper scavenging at the intertidal zone: an evolutionary scenario for invasion of the sea. BioScience 58: 947-955.


 魚の切り身や匂いをまぜた海藻をヘビに与えて丸呑みさせている写真や、海で泳いでいるヘビの写真が掲載されているなど、なかなか楽しい論文です。