島が小さくなるとクモの密度が増加する

 島の面積が大きくなると種数が多くなります(島の面積と種数の関係)。しかし、アバンダンス(個体数)や密度はどうでしょうか。


 カリブ海カリフォルニア湾の小さな島々では、半島部や大きな島に比べて、クモやトカゲの密度が高くなることが知られています。つまり島の面積の増加にともない密度が減少するというわけです。このパターンはいかにして生じているのでしょうか。


 バハマ諸島(カリブ海)において、島の面積と、大きな島からの距離、捕食者であるトカゲ(ブラウンアノール)の有無が、クモ(コガネグモ類)の密度に与える影響を調査した。結果、小さな島で、他の陸地(供給源の大きな島)からの距離が近い時、捕食者であるトカゲがいる場合よりいない場合の方が約10倍も高くなることがあった。


文献
Schoener TW, Toft CA (1983) Spider populations: extraordinarily high densities on islands without top predators. Science 219:1353-1355.


 供給源(ソース)からの距離と上位捕食者であるトカゲの有無がクモの密度に影響を与えているというものでした。小さな島ほど捕食者による影響が大きいという例でしょう。


 カリフォルニア湾のいくつかの島では、クモ(コガネグモ類)やサソリ(Centruroides vittatus)、トカゲ(ユタトカゲ類 )の密度が半島部よりも異常に高い。サボテン上に網をかけているクモ密度は、島の面積が減少するほど増加していた(密度と面積に負の相関)。小さな島では、サボテン上(立方mあたり)50から200個体ものクモがいるほど高い密度であった。また、サボテン上に粘着とラップを設置して飛翔性昆虫を調べると、島の面積が小さいほど個体数が多かった(つまりクモの餌が多かった)。


多くの島は乾燥していて、植生(サボテンなど)は陸上のわずか10%未満を覆うにすぎず、陸上植物による生産性は極めて低かった。しかし、島の周囲の海の生産性は極めて高く、海岸に打ち上がる海藻や魚、また海鳥が島で営巣することによって魚や鳥の死体が多く供給されていた。つまり、クモの個体群は、陸上由来の生産物(植物→植食者)よりも、海由来の生産物(海藻/死体→ハエなど、海鳥→寄生虫)に強く依存していた。


そして


(1)島の面積が小さくなるほど、面積に対する島の周囲長(海岸線:海産生産物の供給場)の割合が増加する
(2)島の面積が小さくなるほど、鳥の捕食者がいなくなり、海鳥の繁殖コロニーが大きくなる


というメカニズムにより、島の面積が小さいほど、クモの密度が増加していたと考えられた。また、バハマ諸島の研究で見られたように、上位捕食者であるトカゲの有無がクモの密度に与える影響は検出されなかった(ユタトカゲ類はトゲのあるサボテンに網をはるクモをほとんど襲わないらしい)。


文献
Polis GA, Hurd SD (1995) Extraordinarily high spider densities on islands: Flow of energy from the marine to terrestrial food webs and the absence of predation. PNAS 92: 4382-4386.


 小さな面積ほどクモの密度が高いのは、小さな島ほど海由来の生産物の割合が増加することが重要ということでした。Allochthonous Input(生産物の他の生態系からの流入)について明らかにした研究としても有名なようです。



 以上2つの研究をみたように、小さな島でのクモの高い密度は、上位捕食者によるトップダウン(栄養段階が上位から下位への影響)か、海由来の生産物によるボトムアップ(栄養段階が下位から上位への影響)か、いずれかの要因が重要なようです。