Ph.D. Defense の条件

 昨日で今年の授業関係は終わりということで、最後のセミナーはまたもや Ph.D. Defense(博士論文公聴会)がありました。今回は、副査の人の質問に対する返答なども公開されていました。内容は、ザトウクジラの音響についての研究。


この1年、何度もDefenseを聞いてきましたが、ふと思い出してみると、すべて動物学部の学生のものでした。セミナーはたいてい植物学部と動物学部が合同なので、なぜ植物学部の方の Defense が含まれていないのが謎です。連絡がきていないというわけではないようです。これまで聞いたPh.D. Defenseをざっと列挙すると・・・


 サメ1、アザラシ、タニシ、サメ2、サンゴ礁、サメ3、アホウドリ、サンゴ、アリ、カタツムリ1、カタツムリ2、ゴカイ、クジラ


という感じです。海の動物が多い気がします。実際、海洋動物学では割と有名らしく、わざわざハワイ大学までやってきて大型海洋動物にとりくむ人が多いようです。確かに院生は動物学部の方が植物学部よりも多いようですが、それだけでは説明しきれません。植物の場合は生態学的な内容が多いから長期データを必要とするのでしょうか。しかし、大型海洋動物の場合、データとりにくいということもあって、Ph.D. Defenseで発表する内容も必ずしも重厚なものではありません。教員の一人に聞いてもあまり確かな答えは返ってきませんでした。


 ところで、Ph.D.Defense を行うにあたって、いったい何本くらいの投稿論文が(科学雑誌に)公表されている必要があるのでしょうか。私が日本で在籍していた研究室では、博士論文に投稿論文数本分の内容が含まれている状態で、(課程博士の場合*)英語で主著論文2本が査読付きの雑誌(Peer-reviewed Journal)に受理されているというのが目安でした。しかし、研究室によってその基準はいろいろで、大学や学部、専攻などで特に一貫した基準はないようです。担当教員曰く、「教授会で申請する時に(その指導教員が)恥ずかしくない程度あれば出しやすい」ということでした。


ハワイ大学でも特に基準があるわけではないようで、指導教員(Supervisor)によってさまざまです。人によってはまだ受理された論文がない場合もありました。雑誌のレベルもいろいろです。博士論文の各章が投稿論文1本ずつに当たるようで、1,2章分がすでに受理されているのが平均といったところでしょうか(もちろん博士論文全体として、数本の投稿論文が最終的に受理されることが期待されているわけです)。


 つまり、P.h.D.をとる過程は、若い貴重な時間は使うとはいうものの、以後の厳しい研究者としての生存競争(就職や研究費獲得など)と比べれば、日米ともにとりたてて狭き門というわけではないのかもしれません。もちろん、日本人が海外でP.h.D.をとるのは語学の面でより大変でしょうが。


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*日本では課程博士以外にも論文博士というのがあります。必ずしも博士過程に在籍していなくても、論文を提出して博士号を得るシステムです。ただ、課程博士の人は学費を払って指導をうけつつ学位をとるのに対し、論文博士は審査する(忙しい)教員にとってはただの面倒な仕事かもしれません。したがって、提出する先は出身研究室であるとか、特別のコネが必要であったり、あまりすっきりしたものではありません。いずれ、廃止されるか、すべて社会人入学として学費を払いながら博士をとる制度に移行するかもしれません。日本でいう論文博士は、米国にはなくて、企業や研究所などで優れた論文を発表していても、博士課程に入らなければPh.D.を取得できません。