ハシジロキツツキの再発見をめぐる論争

 絶滅を証明するには長い時間がかかることが多いのですが、一度でも再発見すれば即絶滅していなかったことになります(絶滅は“悪魔の証明”)。しかし、再発見をめぐっても興味深い論争がおこったこともあります。


 北米に生息していた大型キツツキの一種ハシジロキツツキは、森林伐採などが原因で1945年頃に絶滅したと考えられていました。しかし、2005年にコーネル大学のグループが再発見を行ったとして、その映像と証拠がScienceに掲載されました。



ハシジロキツツキ(Wikipediaより


しかしその再発見のもととなった証拠のビデオ映像をめぐって、Science誌を中心に論争が起こりました。


詳しくはナショナルジオグラフィックの記事を参照
幻の鳥ハシジロキツツキを追う


要約すると、


 50年も前に絶滅したと考えられていたハシジロキツツキが、アーカンソー州の広大な沼地で2005年4月にその姿をとらえた映像によって確認された。ところが、その映像は、近年の映像技術では考えられないほど質が悪く(ネッシー写真とそれほどかわらない)、これをもってハシジロキツツキであることを断定できないという反論がなされた。反論では、映像から見いだされる形態的特徴からでは、北米に広く分布するエボシクマゲラと明確に区別することはできないというもの。以後、Science誌上で、映像に映ったキツツキの腹や風切り羽の区別点などをめぐって論争になった。結局、再発見を支持する明確な証拠は以後も見つかっていない。



Ivory Billed Woodpecker


ハシジロキツツキの映像(0:18から0:22秒の間)
Scienceの原著論文の(同じ)映像はここ


 2009年現在に至るまで、明確な証拠となる発見はなされておらず、結局、その再発見もうやむやになりつつあるようです。


 絶滅を証明するのが難しいのはともかくとして、その再発見もしっかりとした証拠に基づかなくてはならないという意味で難しいのかもしれません。そもそもこの映像で再発見を(しかもScience誌上で)宣言したのが勇み足だったのかもしれません。


再発見論文
Fitzpatrick JW, et al. (2005) Ivory-billed woodpecker (Campephilus principalis) persists in continental North America. Science 308(5727): 1460-1462.


批判コメント
Sibley DA et al. (2006) Comment on "Ivory-billed Woodpecker (Campephilus principalis) persists in continental North America". Science 311: 1555.


反論
Fitzpatrick JW, et al. (2006) Response to comment on "Ivory-billed Woodpecker (Campephilus principalis) persists in continental North America". Science 311: 1555.


再反論
Sibley DA et al. (2007) Ivory-Billed or Pileated Woodpecker? Science 315: 1495-1496.


さらなる映像解析論文
Collinson JM (2007) Video analysis of the escape flight of Pileated Woodpecker Dryocopus pileatus: does the Ivory-billed Woodpecker Campephilus principalis persist in continental North America? BMC Biology 5: 8


 この話で思い出したのが、昔参加したことのある(野鳥の会の)探鳥会。ほとんど誰も確認できなかったのに、ベテランのウォッチャーが「僕は観たよ」という一言で種が記録されていたこと。無脊椎動物では採集標本にもとづいて記録されることが多いけれど、鳥など脊椎動物では目撃や写真、映像だけでも記録になってしまうことがある点、分野間の差があるのかもしれません(脊椎動物を採集・捕獲して標本にするというのは愛護上、保護上も問題あるでしょうし)。