島に固有のカタツムリが気候変動で絶滅?

 島における種数の平衡理論に従えば、種の移入と絶滅が頻繁におこっているということになります。しかし、特定の島にしか残存しない種の場合、その絶滅はそのまま種の絶滅となってしまうでしょう。


 セイシェル諸島に固有の Rhachistia aldabrae というカタツムリは1895年から約100年間調査の度に記録されてきたが、1990年代の後半頃から確認されなくなった。しかも幼貝は1976年以降見つかっていない。


採集・調査記録(論文のTable 1より)
1895年:新鮮な死殻(3)、生きた個体(0)、生存確率(1)
1907年:新鮮な死殻(1)、生きた個体(0)、生存確率(1)
1908年:新鮮な死殻(1)、生きた個体(2)、生存確率(1)
1909年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(2)、生存確率(1)
1966年:新鮮な死殻(2)、生きた個体(8)、生存確率(1)
1972年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(3)、生存確率(1)
1975年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(12)、生存確率(1)
1976年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(10)、生存確率(1)
1977年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(1)、生存確率(1)
1989年:新鮮な死殻(1)、生きた個体(0)、生存確率(1)
1996年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(0)、生存確率(1)
1997年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(1)、生存確率(1)
1998年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(0)、生存確率(0.881)
2000年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(0)、生存確率(0.666)
2005年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(0)、生存確率(0.3221)
2006年:新鮮な死殻(0)、生きた個体(0)、生存確率(0.258)


 1997年前後で調査精度は異なるものの(102年にわたる記録データから)、2006年時点ですでに絶滅している可能性が高い。2000年以降には新鮮な死殻は発見されておらず、古い死殻は少なくとも5年前のものであることから、1990年後半に絶滅したのかもしれない。


 このカタツムリの生息地はここ100年で大きくは変化しておらず、絶滅の原因の一つとして近年の降水量の減少が考えられた。実際、これまで確認された個体数とその年の降水量には相関関係があり、1990年後半からは年間降水量が1000mmを下回る年が頻繁にあった。本種は乾燥時に灌木の枝などで休眠するが、長期の干ばつが(特に幼貝の)活動期間を減らしていたのかもしれない。


文献
Gerlach, J. (2007) Short-term climate change and the extinction of the snail Rhachistia aldabrae (Gastropoda: Pulmonata). Biology Letters 3: 581-584.


参考ページ(貝殻の写真あり)
http://www.wildlifeextra.com/go/news/purple-snail.html#cr


 論文のデータをもって、近年の気象変動がカタツムリの絶滅を導いたというには説得力がないように感じます。しかし、島の生物はもともと個体群が小さく、しかもカタツムリは移動能力が低いので、他の生物よりも気候変動に対して影響を受けやすいのかもしれません。


 ちなみに、カタツムリは死んでも貝殻だけがしばらく分解されずに残ります。貝殻だけが見られると、少なくとも数年前には生息していたということがわかるのに現在は見つけることができないので、“絶滅”が実感できる生物の一つかもしれません。


なお、石灰岩地域では、同じ炭酸カルシウムでできた貝殻は長期間にわたって分解されずに残るため、遠い昔の絶滅種の殻が見られる場合もあります。



小笠原諸島南島(石灰岩の島)で数百年前に絶滅したヒロベソカタマイマイの殻(背後にもたくさんの殻が見える)