島での道具使用と食性進化

 ガラパゴス諸島のような海洋島では、興味深い食性が進化することがあります。以前に紹介した、イグアナやゾウガメの糞を食べるガの幼虫はそのひとつでしょう。


 ガラパゴスで放散したダーウィンフィンチにも興味深い採餌方法や食性をもつ種が進化してきました。道具を使うフィンチ、イグアナやゾウガメのダニを食べるフィンチ、そして海鳥の雛から吸血するフィンチなどがいます。


 道具を使うキツツキフィンチ(Camarhynchus pallidus)は、細い枝やサボテンの棘などを嘴でつまんで、樹皮下にひそむ昆虫の幼虫をほじくりだして食べるという芸を持っています。野外で道具を使う鳥というのは、世界でもきわめて珍しく、他にニューカレドニアに固有のカラスなどが知られています*。



Galapagos: the finches (4/7)
ダーウィンフィンチの映像(キツツキフィンチの採餌行動は1分15秒から)


 ガラパゴス諸島はまた、は虫類天国といって良いほど、大型のイグアナやゾウガメの個体数が多いことで知られています。コガラパゴスフィンチ(Geospiza fuliginosa)は、ガラパゴスウミイグアナやガラパゴスリクイグアナの体表に寄生しているダニ類を食べるそうです。


 さらにハシボソガラパゴスフィンチ(Geospiza difficilis)のWolf島にいる個体群では、島で繁殖するカツオドリ類の卵を転がして割って中身を食べたり、雛の体表を傷つけて血を吸ったりする個体がいるらしい。上記のように体表の寄生虫を食べる行動から進化してきたのかもしれません。


 他にも、サボテンフィンチ(Geospiza scandens)では、Microlophus 属のトカゲの尻尾を切って食べる行動も観察されているようです。


 このような変わった行動がガラパゴスで観察されるというのはどういう意味があるのでしょうか。


 海洋島に生息する生物相は偏っているといわれています。それは、島にたどりつき生きながらえた種類が限られているからです。つまり、本来ならそれぞれのニッチ(生態的地位 Niche)を占める種類が元々いないことが多いのです。そのような空きニッチ(Vacant niche)を利用するような種類が進化してくるのも海洋島の特徴のひとつでしょう。


キツツキフィンチで考えてみましょう。多くの海洋島ではキツツキ類が分布しません。森林性のキツツキは飛んで海を渡るのを好まないようです。島に生息するキツツキの多くは、過去に島が大陸などと陸続きになったときにやってきたものであることが多いようです(対馬のキタタキ、沖縄本島ノグチゲラなど)。つまり、海洋島では本来キツツキが利用しているニッチ(樹皮下の昆虫などを利用すること)が空いているということです。キツツキフィンチは、このキツツキのニッチを埋めるように進化してきたのかもしれません。キツツキは長い舌を使って、樹皮舌や木の割れ目の昆虫たちを器用に食べるそうですが、フィンチ類には長い舌がなく、割れ目の中にいる捉えにくい餌を食べるために、道具の使用というビックリの発明をなしとげたのかもしれません。


 ガラパゴス諸島は、その環境は島によって異なります。砂漠のように乾燥した島から、森林が形成される湿めった島、また火山噴火による新しい溶岩のある島まで多様です。そのため、しばしば本来ではありえないほど、餌資源に乏しい島もあります。そんな餌の少ない環境の中(例えばWolf島)、他の動物の卵や血、寄生虫を利用するような個体が出現してきたのでしょう。また、キツツキフィンチは餌が豊富な森林地帯では道具の使用はほとんど行わないのに対し、乾燥で餌である昆虫が採りにくい乾燥地帯では道具の使用を行う割合が増えるようです。つまり、極端に餌がとりにくい環境が、キツツキフィンチの道具使用を進化させてきたのかもしれません。


参考文献
Grant PR, Grant BR (2007) How & Why Species Multiply: The Radiation of Darwin's Finches (Princeton Series in Evolutionary Biology).


Hunt GR, Corballis MC, Gray RD (2001) Laterality in tool manufacture by crows. Nature 414: 707.


Tebbich S, Taborsky M, Fessl B, Dvorak M (2002) The ecology of tool-use in the woodpecker finch (Cactospiza pallida). Ecology Letters 5: 656-664.


ニューカレドニアガラス(Corvus moneduloides)は葉の葉柄などを使って、木の中にいるカミキリムシの幼虫などを釣り上げるらしい(しかも道具の加工まで行える!)。また、キツツキフィンチおよびニューカレドニアガラスはいずれも、若い個体から道具使用をするようで、必ずしも他個体から学ぶ必要はないようです(つまり道具使用は生得的なもの)。ただし、キツツキフィンチでは、すべての親個体が道具の使用を行うわけではないようで、初期に試行錯誤(Trial and error)の蓄積が必要らしい。



One Clever Crow
ニューカレドニアガラスの映像(道具を加工して使用:関連論文は下記のWeir et al. 2002)


そういえば、熊本の水前寺公園ササゴイは葉や枝を“ルアー”として水面に浮かべて魚をおびき寄せて食べるという行動をとるといいます。これも道具を使う鳥にあたるかもしれません(ただしこちらは生得的なものではないでしょう)。


文献
Tebbich S, Taborsky M, Bessl B, Blomqvist D (2001) Do woodpecker finches acquire tool-use by social leraning? Proceedings of the Royal Society of London B 268: 2189-2193.


Kenward B, Weir AAS, Rutz C, Kacelnik A (2005) Tool manufacture by naive juvenile crows. Nature 433: 121.


Weir AAS, Chappell J, Kacelnik A (2002) Shaping of hooks in New Caledonia Crows. Science 297: 981.


ウェブサイト
ニューカレドニアガラス)
http://homepage3.nifty.com/shibalabo/crow/newcale/tool/tooluse.htm
ササゴイ
http://www.geocities.co.jp/NatureLand/3220/sedef/suizenji.html