ダーウィンフィンチの研究者

 島嶼部での適応放散の例として、鳥類では、ガラパゴス諸島ダーウィンフィンチ類とハワイ諸島のハワイミツスイ類が有名です。ハワイミツスイ類の適応放散は美的にもその規模もすばらしいのですが、多くの種がすでに絶滅してしまっています。一方、ダーウィンフィンチは地味ながらも多くの種は健在で、そのためすぐれた研究が行われてきました。


 ハワイミツスイ類の適応放散を示す嘴の多様性はこちらの画像を参照



ダーウィンフィンチの一種、オオガラパゴスフィンチ(Geospiza magnirostris
Wikipedia より)



ダーウィンフィンチ類の適応放散(異なる餌に適応して嘴の形が多様化した:Wkipediaより)


 ダーウィンフィンチについては、ダーウィン、ラック(David L. Lack)、グラント夫妻(Peter & Rosemary Grant)によって主に研究されてきました。ダーウィンはビーグル号で1831年に、ラックは1940年に、グラント夫妻は1973年より現在に至るまでガラパゴスに渡り調査を行ってきました。


 もともとダーウィンガラパゴスでフィンチ類にそれほど注目していたわけではなかったようです(帰国後やや注目するようになった)。「ダーウィンフィンチ(Darwin's Finch)」という名が定着したのは、ラックが熱心に研究を行い「ダーウィンフィンチ」という名の書を著したためです。


 グラント夫妻はダーウィンフィンチ個体群の長期調査(30年以上!)によって、自然選択や種分化に関する優れた研究成果をあげました。ウォレスとダーウィン自然選択説を発表したロンドン・リンネ協会は、2008年、ダーウィン=ウォーレス・メダル(Darwin-Wallace Medal)をグラント夫妻に授与しています(このメダルは50年ごと、つまり1908年、1958年、2008年にしか与えられていない!)。また、進化学にノーベル賞はありませんが、それを相補する形で選出がなされるという京都賞(基礎科学部門・生物科学)では、2009年の受賞者として、グラント夫妻が選ばれています。


 科学ジャーナリストのワイナーがグラント夫妻の研究風景を描いた「フィンチの嘴」はピューリッツァー賞を受賞しており、日本語訳も出版されています。島の生物学を研究しているものとして、かなりおもしろく読めました。グラント夫妻による「How & Why Species Multiply: The Radiation of Darwin's Finches」は、ダーウィンフィンチの生態・進化についてわかっていることが教科書風にまとめられています。


文献
デイヴィッド・ラック(1974)ダーウィンフィンチ―進化の生態学


ジョナサン・ワイナー(2001)フィンチの嘴―ガラパゴスで起きている種の変貌


Grant PR (1999) Ecology and Evolution of Darwin's Finches (Princeton Science Library)未購入のため内容については触れていません


Grant PR, Grant BR (2007) How & Why Species Multiply: The Radiation of Darwin's Finches (Princeton Series in Evolutionary Biology).


 しばしば夫妻で優れた研究を推し進めている人が知られています。いずれの貢献が大きいのかをついつい勘ぐってしまいがちですが、島での長期調査を続行していくには夫婦での協力関係が大切なのでしょう。


他に、著名な進化学研究者夫妻といえば、コスタリカMary J. West-EberhardWilliam G. Eberhard がいます。別個に専門の分野をもっていて、ほとんど共著がないという意味ですごいです(夫妻とも主に昆虫を材料にしていますが、個人的には W.G. Eberhard の研究が好きです)。