ニューカレドニアも沈んでいた?

 ニュージーランドと同様ジーランディア(Zealandia)の一部であったニューカレドニアもまた過去に沈んでいた可能性があるようです。


 ニューカレドニアといえば「天国にいちばん近い島」(森村桂著)として知られている熱帯の比較的大きな島です(16890km2:四国くらい)。ニューカレドニアもまたかつてはゴンドワナ大陸の一部であったため、一度も陸地と接したことのない海洋島とは異なるものと考えられてきました。また、この島の生物相の特徴として、極めて古い系統の生物相が残っていることです。つまり、大陸の一部であった時代(約8000万年)から生き残りの種(遺存種)をもとに種分化が起こって来たと考えられてきました。


例えば、ニューカレドニア固有のアムボレラAmborella trichopoda)は1科1種で、これまでの研究から現存する被子植物の中で、最初に分化したグループであると考えられています。つまり被子植物の歴史は1億8千万年と言いますから、アムボレラはかなり古くに出現したと考えられているわけです。その他にも飛べない固有鳥カグや、固有のザトウムシ類など、ゴンドワナ大陸起源と考えられるいくつかの動物も知られています。したがって、ニューカレドニアは、8000万年前にオーストラリアと分離して以来、ゴンドワナ大陸起源の種をずっと保持して来たと考えられてきたわけです。


文献
Soltis PS, Soltis DE, Chase MW (1999) Angiosperm phylogeny inferred from multiple genes as a tool for comparative biology. Nature 402: 402-404.


Qiu Y-L et al. (1999) The earliest angiosperms: evidence from mitochondrial, plastid and nuclear genomes. Nature 402: 404-407.



黄色の点線が過去の大陸 Zealandia(画像はGoogleより)


しかしニューカレドニアは、ハワイなどの海洋島と同様、コウモリを除く在来の哺乳類やカエルが全くいません。これまでの地質学的な研究は、過去に海面下に複数回長期間沈んでいた可能性を強く示唆しています。またいくつかの分類群(甲虫、ヤモリ、トカゲなど)に関して、分子系統を用いた研究から、その分化が考えられていたよりは最近におこった可能性が示唆されています。また、アムボレラなどの古い系統の生物相を保持しているからといって、ニューカレドニアがずっと海面上にあったという十分な証拠を与えるものではないという意見もあります。つまり、古い系統の生物相がニューカレドニアに遺存種として長期間生息してきたというのは、ニューカレドニアに近接する地域(オーストラリアやニュージーランド)で多くの絶滅がおこったという前提の上になりたつ仮説であるからです(アムボレラはニューカレドニア以外には現存しない)。


地質学的イベント
8,000万年前:オーストラリアから分離
6,000万年前:一時的に海面下
4,000万年前:一時的に海面下
3,700万年前;海面上に出現(以後ずっと陸地として)


種分化
4,000〜1,000万年前:固有トカゲ(Scincidae)
4,000〜3,000万年前:ヤマモガシ科(Proteaceae)
3,000万年前:固有ヤモリ、アカテツ科(Sapotaceae)
千数百万年前:ゲンゴロウ類など


文献
Grandcolas P et al. (2008) New Caledonia: a very old Darwinian island? Philosophical Transactions of the Royal Society of London B 363: 3309-3317.


Trewick SA, Paterson AM, Gampbell HJ (2007) Hello New Zealand. Journal of Biogeography 34: 1-6.


 以前から地質学的にはニューカレドニアが一時期海面下に沈んでいたというのは一般的だったようですが、生物学者にとっては遺存種の存在から完全には沈んだことはないという立場の人が多かったようです。近年の分子系統的による年代推定によって、ニューカレドニアでの固有種の進化はそれほど昔に起こったわけではないことが明らかになりつつあり、生物学者の立場からもニューカレドニアは一度沈んだ後再び海上に出現し、海洋島における生物相形成と同じことが起こったと考えるようになりつつあるのかもしれません。つまり、ゴンドワナ起源の遺存的な種は、再び海面上にあらわれた後に移り住んで来た可能性もあります(しかしこれはまだ謎のまま)。


 陸上生物相を比較する上で、過去に陸地と接したことがあるかいなかという、海洋島/大陸島という区分はあまり意味がないかもしれません。そこで、生物相形成がゼロからスタート島という意味で定義された「Darwinian Islands」なら、ハワイ諸島とニュージラーンド、ニューカレドニアは同じカテゴリーに入るでしょう。


文献
Gillespie RG, Roderick GK (2002) Arthropods on islands: colonization, speciation, and conservation. Annual Review of Entomology 47: 595-632.