島が大きくなると食物連鎖長がのびる

 島の面積が大きくなると、種数が多くなる体サイズも大きくなる種分化がおこりやすいなどが知られてきました。


島が大きくなると種数が増えることから、種間の食う食われる関係の数、つまり食物網(Food web)のサイズも大きくなるでしょう。食物網にはエネルギーの流れなど一定の方向性があって、光合成を行う植物(一次生産者)、そして植物を食べる植食動物(一次消費者)、さらに植食者を食べる捕食動物(二次消費者)というような栄養段階があります。そして一番上の消費者が最上位捕食者(Top predator)と呼ばれます。


この植物→植食者→捕食者→という流れが何段階あるかが、食物連鎖の長さ(Food chain length)です。この食物連鎖の長さは、いろいろな生態系でばらつくことが知られており、これはどのような要因によるのか、いくつかの仮説が提出されています。


(1)攪乱が多い場所ほど短い
(2)生態系のサイズが大きいほど長い
(3)生産性の高い場所ほど長い。


この中でも、(2)については


生態系サイズが大きくなる→種数が増える→捕食ー被食関係を安定化させる


というメカニズムが働くことが予想されます。実際、湖の大きさ(生態系サイズ)が大きくなるほど食物連鎖長が伸びることが知られています。


 湖は陸の中の「島」ですから、陸上生態系でも、島が大きくなれば食物連鎖長は長くなりそうです。


 バハマ諸島(カリブ海)の3つの大きな島と、攪乱(ハリケーン)を受けやすい19の島、受けにくい14の島のそれぞれにおいて、まず最上位捕食者[造網性クモ類(コガネグモ類) or トカゲ(ブラウンアノール)]を同定した。次に、それぞれの島で、生産者である植物の葉または打ち上げ海藻、そして最上位捕食者のサンプルから安定同位体比を測定し、食物網連鎖長を推定した(生産者と最上位捕食者の窒素安定同位体比から、栄養段階が一つ上がるごとに3.4‰上昇するという経験値を用いて栄養段階数を推定)。



バハマ諸島(クモやトカゲからなる群集はこれまでもよく研究されてきたGoogleより


 結果、食物連鎖長は、島の面積(0.0005〜300km2)が大きくなるにつれ長くなる傾向があった。


攪乱は食物連鎖長に影響していなかったが、最上位捕食者に影響を与えていた。つまり、攪乱を受けやすい島で面積が小さい場合はトカゲが不在でクモ類が最上位捕食者になりやすかった。また、攪乱に関わらず、小さな島ではトカゲがいる場合は、クモ類がいないことが多かった。これは、トカゲはクモを捕食するからである(しかし、十分に大きな3つの島では、トカゲとクモが共存していた)。また、攪乱が食物連鎖長に影響を与えなかったのは、トカゲとクモが共存しない島では、いずれの種も似たような餌を食べる最上位捕食者であったためかもしれない。


文献
Takimoto G, Spiller DA, Post DM (2008) Ecosystem size, but not disturbance, determines food-chain length on islands of the Bahamas. Ecology 89: 3001-3007.


 バハマ諸島の食物連鎖長のばらつきは、攪乱ではなく、島の面積(つまり生態系サイズ)によってよく説明されていたという結果でした。なお、バハマ諸島では、生産性と食物連鎖長との関係は明らかではないようです。