共生関係が外来種の定着を促進する

 外来種が定着するにはどのような要因が重要か。この要因を明らかにすることは、生態学的にも興味深い命題であるし、外来種による在来生態系への影響を何とか緩和していく上で重要でしょう。


 例えば、庭木など観賞用として持ち込まれた外来の植物が、どのように野外に逸出して定着するかを考えてみます。植物の場合、種子を生産し散布することからはじまります。つまり、送粉と種子散布が、定着の最初のステップとなるでしょう。風媒や風散布をのぞけば、通常、花粉媒介と種子散布をしてくれる動物(主に昆虫や鳥)が必要です。動物はまた花蜜や花粉、果実を食べることで利益があるので、通常これらの植物と動物の関係は共生関係にあると考えられています。


次に、その送粉や種子散布を外来動物が行っているという場合を考えましょう。外来動物にとっても、外来植物の花粉や蜜、果実は重要な食物資源です。このような、外来種同士の相互作用が、侵入地でのお互いの定着に役立っている可能性があります。実際、このような外来種同士の関係性は近年多く報告されています。


 このような、外来種同士の相互作用によって侵入や定着が促進されるという現象を ‘invasional meltdown’と呼んでいます(以下の文献参照)。


頻繁に引用される文献


Simberloff D, Von Holle B (1999) Positive interactions of nonindigenous species: invasional meltdown? Biological Invasions 1: 21-32.


Richardson DM, Allsopp N, D’Antonio CM, Milton SJ, Rejmánek M (2000) Plant invasions - the role of mutualisms. Biological Reviews 75: 65-93.


 では、具体的に、どのような種間相互作用を経て、外来種は定着し、個体数を増やしていくのでしょうか。


方法:植物とその受粉を行う送粉者の関係について、外来種を含む割合(侵入度)が異なる10の植物ー送粉者群集について、ネットワーク解析を行った(8つは南アメリカ大陸アンデス南部、2つはモーリシャスとアゾレスの海洋島)。


結果:10の群集で侵入度合いと共生関係の強さの関係をみたところ、侵入度合いが増加するに従い、個々の種の共生関係の結びつきは弱まっていった(外来種との関係を除いた在来植物ー在来送粉者の関係ではその傾向はなかった)。また、植物ー送粉者の共生関係は、著しい非対称的な共生関係にあることが知られているが、侵入度が高い群集では、外来種の追加により共生関係の非対称性が高まっていた。さらに、侵入程度が高い群集では、極めて多くの種と関係を結ぶ外来種の存在(super generalist)が確認された。


考察:侵入程度が低い群集から高い群集への流れを以下に考察。


外来種は最初密度が低く、‘super generalist’の在来種(いろいろものに利用されまたは利用される種)と相互作用を結ぶことで群集内に定着する(侵入度が低い段階)。
   ↓

その後、攪乱や何らかの生態的プロセス(例えば捕食や寄生)の消失などによって、外来種の爆発的個体数増加が起こる。
   ↓

個体数の増加した外来種は、相互作用をもつ外来種の増加を導き、最終的には‘super generalist’の外来種同士の共生関係が優占するようになる(侵入度が高い段階)。この過程で、外来種と在来種の連結が増加し、在来種同士の関係が希薄になっていく。


示唆:植物ー送粉者群集で、外来種の侵入によって多くの在来種同士の関係性が(永遠に)失われてしまう可能性がある。


文献
Aizen MA, Morales CL, Morales JM (2008) Invasive mutualists erode native pollination webs. PLoS Biology 6(2):e31.


super generalistについては以下のページにて解説
http://d.hatena.ne.jp/naturalist2008/20090201


ハワイ諸島固有の“オヒア”(ハワイフトモモ)の花を訪れるセイヨウミツバチ(外来種のsuper generalist)


 外来種の侵入度合いが高い海洋島の群集(島の外来ミツバチなど:上記写真)を思い浮かべて、直感的には何となくわかるものの、個々の図表の理解がなかなか困難でした。よって、極めて理解しにくい説明になっているかもしれません(すいません)。

 
 この数日、論文に電子付録でついている生データと、与えられた解析の手順に従って計算を試したりして過ごしました。こうしてじっくりと論文を検討してみるのは楽しいのですが、たいして何も進んでいないことに気づきます。とても贅沢な時間の過ごし方かもしれません。