海洋島では ‘Super Generalist’ が進化する

 隔離された海洋島では独自の進化が起こってきたことは繰り返し紹介してきました(例えば、「島の固有種:その進化」)。その要因の一つが、陸上生物がゼロ(一次遷移)からスタートすること、そしてそこに(自然に)侵入してくる種が少ないことがあります。


つまり、大陸やその他の島と比べて、それぞれの生息場所における種数が少なく、種間の競争関係がそれほど厳しくないということを示唆しています。そのため、本来ならば海岸域にしか生息しない種が競争者がほとんどいないために山間部にも分布を広げることができるといったようなことが起こります。このような現象を、一般に生態的解放(ecological release)と呼んでいます。


生態的解放を考えれば、生息域の拡大だけでなく、餌メニューなど資源利用の幅も広くなる可能性があります。つまり、本来ならばAという植物しか食べなかった種が、島に来てそこで生き残るために、本来は食べていないBという植物を食べるようになっただけでなく、他にもいろいろな植物種を利用できるようになる場合があったかもしれません。また、もともと広い餌メニューの幅をもっていたものが、競争種が少ない島の環境で、さらにメニューを広げることが可能かもしれません。


 海洋島の共生関係、例えば植物とその花粉を媒介する送粉者の関係では、植物に比べて送粉者の種数が少ないことが多く、送粉者の一部の種が広範囲の植物種の送粉を行っていることが知られています。このような種は、‘super generalist’と呼ばれています。そうして定義してみると、海洋島には、super generalistにあてまはるいろいろな固有種がいることに気づいてきます。例えば、ガラパゴス諸島の唯一の在来ハナバチであるダーウィンクマバチは、実に79種もの植物の花を訪れることが記録されています。


小笠原に固有のオガサワラクマバチ(ダーウィンクマバチほどではないですが、20種以上の植物の花に訪れます)(Sugiura 2008より)


文献
Olesen JM, Eskildsen LI, Venkatasamy S (2002) Invasion of pollination networks on oceanic islands: importance of invader complexes and endemic super generalists. Diversity and Distribution 8: 181-192.


McMullen CK (1993) Flower-visiting insects of the Galapagos Islands. Pan-Pacific Entomologist 69: 95-106.


 super generalistは何も海洋島だけで進化するわけではありません。海洋島では種数が少ないため、共生関係など、super generalistの固有種が活躍する場面が多いということです。ただし、在来種でないgeneralistも、島ではsuperになれる可能性があります。そう、generalistの外来種もまた、島ではsuper generalistとして大きな影響力を持つのです。これについてはまた、今度


補足:generalist(ジェネラリスト)は、specialist(スペシャリスト)の対義語です。私も小笠原という海洋島で調査するようになって、植物から昆虫、カタツムリ、ウズムシまでなんでも研究するようになったという意味で、研究者も島では generalist になるのかもしれません。