大学教授の仕事:研究費の獲得など

 米国では、1日が休日だけで、31日や2日は平日のようでした。いずれの日も研究室に行こうかとは思ったのですが、朝から雨が降っていることが多く(言い訳)、面倒なので行きませんでした。ところが、今日(2日)の午後にRさんから電話がかかってきました。風邪でもひいたんじゃないかと思って少し心配されていたようです。そういえば、年末、Ph.D Defenseに追い込みをかけているKさんが咳き込んでいたのが関連しているのかな。ともかく、心配かけていはいけないので、今後休む時は連絡するようにします。


 Rさんは土日と、休日の25日(クリスマス)と1日(New Year)以外はほぼ研究室に来ていたことになります(Kさんはずっと!?)。欧米人はこの季節、休みを多くとるものだとばかり思っていましたが、人によるみたいですね。もちろん、学部生たちは地元に帰ったり、長期休暇を満喫しているのは言うまでもありません。

 さて、Rさんですが、締め切りがせまっている研究費の申請書を執筆するのに、この1ヶ月間はかなりの時間を費やしています。曰く、「最もpriorityの高い仕事」だとか。Rさんは、Research Professor(研究教授?)で、普通のteaching(授業など)をする必要はなく、教育よりも研究に重きをおいた教授職だそうです。ただ、学生の研究指導はされています。他の仕事として、セミナーの開催や参加、Meeting(会議?)への出席などがあるようです。セミナーは週に2回(ともに金曜日の午前と午後)、Meetingはよくわからいないけれど昼食時にしばしば行われているようです。もちろんPh. Defenseや公募、昇進にかかわるTalkもたまにあります。

 朝は早く、7時台には研究室で仕事を開始されているようです(Rさんより先に研究室に来たことがほとんどないので知らない)。しかし夕方は、4時頃になったら帰られることが多いです(忙しい時は、6時か7時まで)。健康のため、夕方はスポーツジムに行ってスカッシュかランニングをされるそうです。また、土日はテニスやクリケットをされているそうです(テニス、スカッシュ、クリケットなどのスポーツからわかるかもしれませんが、Rさんはイギリス人なのです)。

 ところで最も重要な仕事の一つである、研究費の獲得ですが、どんな予算に申請されているのでしょうか。日本でも最近、(米国の真似をして)競争的資金の獲得が盛んに叫ばれています。せっかくなので、少し聞いたり調べたりしてみました。

  • NSF (National Science Foundation: 米科学財団)

 これは、日本でいう科学研究費補助金科研費)に近いもののようです。数ある研究費の中でも、予算額が大きく、米国の研究者には重要視されているようです。これに採用されると、研究者(ポスドク)を雇えるというくらいなので、それなりの額なのでしょう。

  • USGS (United States Geological Survey: 米地質調査所)

 これにあたる研究費は、日本にはないかもしれません。米国は、さまざまな地域の資源調査を行っていて、USGS-BRD(Biological Resources Discipline; 生物資源部門) が地域の生物相の解明や希少種の保全にも研究費を支出しているようです。太平洋の島々での調査など、探検系のプロジェクトで申請できそうです。

  • USDA (United States Department of Agriculture: 米農務省)

 USDAは、日本でいば、農林水産省にあたるかもしれません。外来種や害虫の調査などで申請されているようです。この予算で学部生や大学院生の給料を支払っているそうです。

  • US Army (United States Army: 米陸軍)

 ハワイの多くの地域は米軍の土地で占められています。その中の絶滅危惧種保全するために、研究者と共同のプロジェクトが行われています。そのために、US Armyには修士号をもった研究者が常勤しています。元旦にお邪魔したVさんはその仕事をされています(軍人じゃありません)。とあるFaculty(教員)の給料の多くがUS Armyの支給する研究費でまかなわれているらしく、その研究費の規模は大きいようです。


 他に、日本と同様、民間が支出する様々な研究費もあるようです。また、NIH(National Institutes of Health: 米国立衛生研究所)の研究費も有名ですが、これは、医療や薬学などにかかわる研究費で、生態、系統、保全などの分野からの申請はほとんどないようです。日本でいえば厚生労働省科研費にあたるのかもしれません。


 上記の研究費には、申請期間、予算額、身分に応じたさまざまな区分けがあるようです。たとえばNSFには大学院生向けの予算もあるそうです。日本の科研費にある特別研究員と同じような制度なのかもしれません。申請期間は、NSFでだいたい2,3年だそうですが、その他についてはよくわかりません。

 
 一部の任期付きの研究者は、上記の研究費から給料がまかなわれるので、確かに研究上で最も重要な仕事でしょう。しかし、NSFの採用率は、申請数の10%前後だとか。申請してくるレベルを考えれば、かなりの競争の厳しさです。申請書の量も多く、さらに未発表の予備データが必要で、その執筆には神経をすり減らすそうです。Rさんも論文を書くのは好きだけど、この作業はストレスだとおっしゃていました。


 しかし考えてみれば、多くの研究費の出所をたどれば税金です。しっかりとした計画と厳密な審査が必要なのは、米国でも日本でも当然でしょう。私がこうしてハワイで滞在させてもらっているのも、日本の税金のおかげです。どういう形で社会に還元できるのか、問われるといつも答えに困ります。とりあえず、こちらで知り得たこと、勉強したことなどを、できるだけわかりやすい形で発信することからはじめたいと思います。